香港デモに対する各国首脳の反応から見える世界情勢と裏社会

「逃亡犯条例」改正案が正式に撤回されても香港デモは収まる様子を見せていません。そんな終わりが見えない香港デモの結末を予測するべく、今回は各国首脳級の人たちの反応を見ていきます。その海外の反応を通して各国の裏事情や世界情勢も見えてきます。果たして、今後の世界はどうなっていくのでしょうか。

 

アメリカ、トランプ大統領の静観

 

中国との貿易戦争の最中にあるアメリカのトランプ大統領はこれまで香港デモに対する言及をしてきませんでした。しかし、10月7日、AFP通信によると、香港で続く抗議行動について「人道的な処置が取られることを望んでいるし、習近平国家主席にはそうする能力がある」と述べ、中国政府に対して平和的な対応を促しました。

 

過激な発言を繰り返すあのトランプ大統領がこのような静観的な発言に留めているのは何か裏があるのかもしれません。香港デモはいわば反中国共産党デモであり、共産党に飲み込まれようとしている香港市民の反抗なのですから、トランプ大統領からすればデモを支持することで中国の圧政ぶりを批判する好機のはずです。

 

しかし、トランプ大統領は香港デモを支持することを避け、「(当初のデモ人数は)200万人いた」「今では群衆の規模はずっと小さくなっている、これは何かを示しているのかもしれない」と述べ、デモ隊の勢いが落ちてきているのではないかとの見方を示しています。

 

それに対し、対中の超強硬派のマイク・ペンス米副大統領はこのような反応をしています。

 

マイク・ペンス副大統領の批判

 

BBCによると、マイク・ペンス副大統領は香港デモに関連して、中国の政策が「ますます攻撃的になり、情勢の不安定化を加速させている」と批判しています。(2019年10月24日、中国の外交や通商政策を批判する演説中での発言)

 

またペンス副大統領は「一国二制度」の原則に基づく香港の自治権を保証するという誓約を守るように要請した上で「当局が香港の抗議デモに暴力を行使するならば、中国と貿易合意を結ぶのは困難になる」と指摘して自制を求めました。

 

香港デモに対して中国共産党直轄の警察部隊(中国人民武装警察部隊)は投入されていませんが、香港警察による暴力は既に公になっています。→香港警察の暴力シーン動画(※過激なシーンが含まれますので、苦手な方は見ないでください。)

 

ペンス副大統領が言及する「当局が香港の抗議デモに暴力を行使するならば」というのは中国共産党下の警察部隊に対するものだと思われますが、共産党としては天安門事件の反省もありますから中国人民武装警察部隊を投入することはないでしょう。実際、中国共産党は香港デモに関しては何も触れようともしませんし、共産党系メディアも当初はデモを批判していましたが、中華人民共和国建国70周年記念の10月1日に近づくにつれ、香港デモに関して言及することはなくなっていきました。

 

その代わり、香港警察を使って暴力的に鎮静化しようとしているのだと思われます。また、警官の多くは制服にも個人識別番号を掲示していないことから、中国人民武装警察部隊が香港警察に紛れてデモ隊を取り締まっているという疑惑も報じられています。それが本当かどうかは分かりませんが、何はともあれ、中国本国が直接手を下していないというのは、国際的な批判をかわす中国の狡猾な戦略といえるでしょう。

 

ペンス副大統領は更に「中国共産党が世界に類をみない監視国家を建設している」と指摘し、新疆ウイグル自治区などの少数民族らを最新テクノロジーを使って厳重な管理下に置いていると批判しました。また、その監視技術は「アメリカの公共の議論に影響を与え」「検閲を輸出しようとしている」と批判を展開しています。

 

これは前の記事で紹介した中国発の技術である監視システムの輸出に関して述べているものだと思われます。

 

中国の信用スコア・顔認証による超管理社会の恐るべき実態

 

中国の官民が一体となって5Gネットワークをベースにして信用スコアや顔認証システムをビッグデータと組み合わせて、超管理社会を築きつつありますが、それら技術を海外にも輸出しようとしています。

 

ペンス副大統領は一方では「中国との対決は求めていない」「中国の発展を封じ込めることは目指していない」と指摘し、中国指導部との建設的な関係の構築を求めています。

 

 

香港の元宗主国イギリスの反応

 

1997年まで香港の主権を握っていた元宗主国イギリスは香港デモに対してどのような反応をしているのでしょうか。

 

その反応を見る前に香港が返還されるまでの経緯を簡単に整理したいと思います。

 

香港はアヘン戦争(1840〜42年)以来、イギリス領であり、日本の軍政下にあった3年8カ月を含めて150年ほど植民地時代を経験しています。返還プロセスを定めた「英中共同声明」(1984年)で中国は「1997年の返還後、50年間の香港の高度な自治と法治国家としての位置づけ」を約束しています。

 

その50年後の2047年を待たずに中国は香港への介入を強めようとしているのですが、それに対し共同声明を出した立場としてイギリスは何かを言ったり、仲介役に立ち回る権利があるはずです。

 

そのイギリスは今EU離脱問題でそれどころではありませんが、一応ボリス・ジョンソン首相は「(改正案に対して抗議する)香港の人々を支持する」と発言しています。また、ドミニク・ラーブ外相は香港でデモ隊と警官隊が衝突したことを受けて「われわれは暴力を非難しており、平和的な道を見つけるために建設的な対話を勧める」と発言しています。

 

ちなみに前政権テリーザ・メイ首相時代のハント外相は「中国は1984年の共同声明を遵守すべし」と強調していましたが、中国外務省は「あの声明は過去のもので遵守する義務はない」と公に反論しています。

 

全体的に香港デモを支持している模様のイギリスですが、そのイギリスは連合王国でスコットランドや北アイルランドという独立をするかもしれない分子を抱えているため、独立に繋がるような他国の内政問題に強く意見を言えないという事情もあります。もしそうすればスコットランドや北アイルランドの独立派を刺激して、独立を問う国民投票などに発展してしまう恐れがあるからです。

 

EU離脱問題で精一杯ということに加え、北アイルランドなどの独立問題を抱えているイギリスは他国に深く干渉できず、デモを支持する程度の発言をするだけに留めています。かつての大英帝国の繁栄と世界への影響力は今は失われつつあるのかもしれません。

 

 

香港デモ弾圧を主導するイギリス人幹部

 

実は香港デモの鎮静化に努める香港警察の上層部にはイギリス人がまだ居座っているという事実があります。ニューズウィークの記事でも取り上げられていますが(参考:『香港デモ弾圧はイギリス人幹部が主導していた!』)、デモ隊の弾圧を主導したのはルパート・ドーバー警視らイギリス人上級幹部だとされています。

 

香港警察は1994年に外国人の採用を中止しているのですが、一部のイギリス人幹部は返還後も香港警察にとどまって上層部を牛耳っているという事実があります。

 

詳細は上のリンク先のニューズウィークの記事に譲りますが、文化大革命時代から香港警察とイギリス警察はデモ鎮圧の手法を提供しあっている模様です。

 

イギリス政府は香港デモを支持する一方で、鎮圧に動く香港警察を主導するのもイギリス人。香港デモはイギリスの裏社会が垣間見えた事件とも言えるでしょう。

 

香港デモはむしろ好都合な台湾総統の蔡英文の反応

 

そもそもこの香港デモの発端は台湾と香港間での逃亡犯引き渡し協定ですが、その当事者でもある台湾は香港デモに対してどのような反応をしているのでしょうか。

 

台湾の蔡英文総統はこのように述べています。

 

「香港警察が抗議者にゴム弾を発射する光景を見て大変悲しんでいます」

「香港の人々に:どれだけ自由を求める声を上げても聞き入れられることはないと思ってしまうかもしれません、ですがどうか台湾の、世界中の志を共にする全ての友人があなた方を支持していることを知ってください」

 

蔡英文総統は元々中国政府に対して反対的な姿勢を見せており、台湾も中国の一部だとする「一つの中国」という考え方には断固拒否しています。蔡氏はフェイスブックへの8月の投稿でも、自身が総統にとどまる限りは、台湾は決して香港のようにはならないと明言し、中国に飲み込まれることに危機感を感じている台湾国民の支持を集めています。

 

実は2018年11月の統一地方選挙で民進党は大敗を喫し、蔡氏は任期1期限りで政権の座を降りる台湾初の総統となるとも囁かれていましたが、この香港デモが追い風となり、人気を取り戻しました。言い方を悪くすると、蔡氏にとって香港デモはむしろ好都合だったのです。

 

中国共産党に飲み込まれようとしているという意味では台湾も香港も同じ境遇にあることから、香港デモを応援するということは台湾を中国から守るということにも繋がります。つまり、香港デモは台湾の未来を占う重要な事件ともいえるのです。

 

香港がこのまま中国共産党に屈服すれば、台湾もそのようになってしまうかもしれません。

 

中国を支持する北朝鮮の金正恩総書記

 

世界の反応を見ると香港市民を支持する論調が目立つように思いますが、中国側を支持する反応もあります。それが北朝鮮です。

 

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、デモ隊と警察隊の衝突が続く香港デモを巡って「中国の党と政府の全ての措置を全面的に支持する」とする論評を掲載しました。

 

金正恩総書記は直接自身の声で香港デモに関して発言しているわけではないですが、労働新聞=金正恩の考え方とみていいでしょう。

 

中国の子飼い的な存在であり続けた北朝鮮は中国に反抗するような素振りを見せたことは今まで一度もありませんし、独裁者の立場としてはその立場を揺るがす民衆デモを支持するわけにはいきません。

 

しかし、それは金正恩の建前で、本音は民衆側に勝ってほしいと思っているという見方もあります。

 

その点を別の記事で考察したのでよろしければそちらもご覧ください。

 

香港デモで中国共産党の勝利すると金正恩が不都合なワケ

 

安倍首相の反応

 

日本の安倍首相の反応を見てみましょう。

 

安倍首相は10月23日、天皇陛下の「即位礼正殿の儀」に参列するために日本を訪れた中国の王岐山国家副主席と会談しました。会談で安倍首相は、香港デモついて「大変憂慮している」と伝えて、自制と対話による平和的な解決を促した上で、引き続き「一国二制度」の下,自由で開かれた香港が繁栄していくことの重要性を指摘しました。どうやら強い批判はしなかった模様です。

 

米中貿易戦争に巻き込まれ、経済的悪影響を受けている日本としては中国との経済関係を壊さないよう、強く批判できない状況なのでしょう。

 

習近平国家主席の意味深な反応

 

中国共産党のトップ、習近平総書記は香港デモに対してはなぜかだんまりを決め込んでいます。

 

唯一、デモに対するコメントが確認できるのは2019年6月、大阪で行われた日中首脳会談における安倍首相との会談の際です。その時習近平氏は「(香港デモは)一部の外国勢力が混乱を引き起こしている」と述べたことがFNNの取材でわかっています。

 

一部の外国勢力はアメリカを指していると思われていますが、実際はどうなのでしょうか。

 

習近平に除外されつつある江沢民一派とアメリカのウォール街勢力(国際金融資本家)が結託し、習近平を権力の座から引きずり落とすためにデモを扇動し、「民主化運動」の名の下、徹底抗戦をしようとしているという見方があります。また中国共産党を挑発をすることで、中国人民武装警察部隊を投入させ、国際的な非難を浴びさせ、失脚させようとしているのかもしれません。

 

一方、習近平としては香港に巣食う上海閥の江沢民一派を除外したいという思惑があります。実際、上海閥は香港を隠れ蓑とし、マネーロンダリング(資金洗浄)をして中国本土から手に入れた汚職金を海外(主にアメリカ)へ逃がしています。習近平の汚職撲滅キャンペーンが始まって以来、上海閥を中心に何十万人以上の汚職が摘発されていますが、香港から中国本土に対して容疑者を送るシステムがないため香港にいる上海閥を摘発することができないのです。

 

つまり、香港と台湾との間での逃亡犯引き渡し協定が引き金となって、習近平vs香港に巣食う江沢民一派(上海閥)の争いが表面化したという見方ができるのです。

 

その両者の裏側にはアメリカの国際金融資本家(ゴールドマンサックスなどのウォール街を拠点にする金融勢力)がバックにいるとみていいでしょう。上海閥と金融資本家たちはクリントン時代からズブズブの関係で、マネーロンダリングを通して中国の汚職金は米国へ流れていました。

 

しかし、金融資本家としては落ち目の上海閥が負けるようなら、習近平の方へ鞍替えするでしょう。

 

何はともあれ、香港デモは単なる香港市民vs中国共産党ではなく、中国共産党内の権力争い、引いてはアメリカに拠点を置く金融資本家の策謀があることは間違いなさそうです。その裏の動きを考察するのは骨が折れますが、世界情勢を理解するためには常に必要なことでもあります。

 

その考察はまた別の機会に譲ろうと思います。

 

それでは今回はこの辺で。

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