韓国輸出規制でサムスン・LG等の財閥企業の今後はどうなる?

日本が韓国に対し7月に入ってからフッ化ポリイミド、レジスト(感光材)、フッ化水素の三品目を輸出規制した(正確には特別優遇措置から一般的な措置に戻した)ことにより、韓国の政財界に激震が走っています。

 

韓国政府は猛反発し、WTOへの提訴準備をしたり、材料の国産化による日本企業への依存度を下げようとしています。一方、国民の間では日本製品の不買運動が広がり、韓国全体で脱日本の流れが加速しつつあります。

 

それでは韓国のサムスンやLG、ヒュンダイなどの大企業、いわゆる財閥企業の反応はどうなのでしょうか?韓国大企業の今後の行方を考察していこうと思います。

 

サムスンの反応と今後の行方

 

サムスンは言わずと知れた電気大手で韓国の中でも一番の売上を誇るトップ企業です。なんとサムスン一社だけで韓国GDPの14.6%も占めるほど(2017年データ)。ちなみに韓国の経済構造は企業売上の上位10社だけでGDPの44.3%を占めるほど大企業に依存するものとなっています。

 

そのサムスンも今回の輸出規制には相当頭を悩ました模様で、7月17日の業界の説明によると、サムスンなどの国内半導体メーカーは高純度フッ化水素など3大品目の約1、2カ月分の在庫は確保した状態で、日本のメーカーに輸入申請をして待っているといいます。日本の税関における個別輸出申請は最大で3ヶ月かかるので、最悪の場合在庫切れで製造ラインが一時ストップしてしまいます。

 

その在庫切れを防ぐべくサムスンも動いているようです。韓国の通信社、聯合ニュースによると、サムスン電子の事実上のトップ李在鎔副会長は輸出規制後の7月7日から12日まで東京を訪れ、関係企業と会談し、規制強化の対象品目の在庫を一定程度、確保したと伝えています。しかし調達先や量は明らかにされておらず、これを否定する報道もあります。

 

また第三国経由の迂回輸入も検討されているようで、京郷新聞によると日本企業ステラケミファの台湾・シンガポールにある工場からフッ化水素を仕入れるルートも考慮したようですが、これも日本政府の追跡のため不可能と判断されている模様です。

 

そこで韓国は中国企業からのフッ化水素輸入を拡大していく模様で、中国山東省にある企業「浜化集団」が韓国からフッ化水素の水溶液であるフッ化水素酸を受注したことを明らかにしていることからもその方針が伺えます(中国の産業関連業界団体の「電子化工新材料産業連盟」の公式SNSによる)。具体的にどの韓国企業が発注したのかは明らかにされていませんがサムスンが関わっている可能性は高いと思われます。

 

またサムスンは韓国のフッ化水素メーカーのソウルブレイン(SoulBrain)による国産フッ化水素も半導体の製造ラインに導入可能かどうか、テスト作業も開始していると伝えられています。しかし部品や素材の国産化には「1~2年ではなく、非常に長い時間がかかる」(韓国半導体産業協会の安基鉉=アン・ギヒョン=常務)という見通しがされていて、短期的な解決策とは言えません。

 

中国や韓国製のフッ化水素は日本企業のに比べると純度が落ちるようですが、製造に問題がないと判断されれば日本離れがより加速していくでしょう。ロシアからもフッ化水素の供給提案が来ているようですが、関係者によるとロシア産の質に関する情報は全くなくテストに少なくとも2ヶ月はかかるそうです。問題がなければロシア産のフッ化水素も輸入することになるでしょう。今後このように韓国企業は供給元の多角化を進め、製造ラインの停滞を防ぐ動きを見せるでしょう。

 

またサムスンの李在鎔副会長は半導体だけでなく他の分野でも日本企業への依存から脱却する姿勢を見せています。

 

実際日本からの帰国後、緊急社長団会議を招集して

 

「日本の輸出規制に伴う影響が、半導体とディスプレーに限定されず、スマートフォンや家電などに拡大する可能性がある」

 

としながら、コンティンジェンシープラン(Contingency Plan・非常計画)を用意するよう指示したと言われています。

 

 

日韓の貿易戦争になることを見越しての発言と思われますが、その可能性も十分にあり得るので、そうなった時のためにも日本への依存度を下げようとしているのでしょう。

 

韓国民間人は日本製品不買運動は感情的なものですが、サムスンの日本離れは生き残りをかけた現実的な経営戦略と言えます。

 

SKハイニックス、逆境のその先

 

韓国の半導体メーカー、SKハイニックスは営業利益においてサムスンに次ぐ成績(2018年データ)を収め、海外への輸出を主に展開している企業ですが、この企業もまたサムスン同様にフッ化水素などの仕入れルートを模索しながらも国産フッ化水素で半導体を製造テストしていると報道されています。

 

SKハイニックスは東芝社員に賄賂を贈り、東芝の半導体研究データを漏洩させたことで知られていますが(東芝研究データ流出事件)、その後は独自に発展を遂げ、今では韓国を代表する企業になりました。

 

そして龍仁(ヨンイン)市の京畿道(キョンギド)に2022年からの10年間で大規模な半導体クラスター(産業集積団地)を構築する計画(予算は120兆ウォン:約12兆円)について韓国政府から承認を獲得しています。いわば韓国版シリコンバレーがSKハイニックス社主導で作られようとしているのです。半導体は人工知能、ビッグデータなどで第4次産業革命時代に需要がさらに急増する見通しであり、今後も韓国経済の核となるものです。

 

それほど重要で大規模な国家プロジェクトがある中で今回の日本の輸出規制程度で狼狽えていては先が思いやられます。今回の輸出規制は韓国にとって短期的には危機かもしれませんが、中長期的には逆にチャンスです。日本への依存度を下げる好機と言えます。

 

韓国政府は半導体材料の国産化に向けて大規模な投資をすると言っていますから、日本もそれに負けず半導体メーカーへ投資を増やして、お互い独自に発展し切磋琢磨し合えばいいのではないかと私は思います。

 

意外と涼しい顔のLG

 

中国メディア・東方網によると、韓国家電メーカーのLGエレクトロニクスは中国を頼りに「巧妙にすり抜けようとしている」模様です。

 

同メディアはLGは2017年に中国の広州に450億元を投じて大型OLEDディスプレイパネル工場の建設を開始しており、そこでの量産体制がもうすぐ整うことを理由に挙げました。そしてLGは中国工場は主に材料を現地調達するため、日本の法規による規制を受けないとの声明を発表していると同メディアは伝えています。

 

LGは先を見据えた投資により今回の危機は難なく回避できる模様です。

 

経済報復拡大を恐れる現代(ヒュンダイ)車

 

韓国の大企業の中で今回の輸出規制による影響が少ないとされる現代(ヒュンダイ)自動車。ですが同企業は今後の両国の経済制裁の応酬の激化を恐れています。自動車は半導体と違って供給元が多角化されていて日本への依存度が高いわけではありません。しかし、最近現代車が開発に力を入れている水素電気車は核心部品である水素保存装置材料(炭素繊維)やそれ以外にも燃料電池スタックや電気車バッテリー部品を日本から主に輸入しているため、日本の貿易報復が拡大した際には大ダメージを受けることになります。

 

現代車は中国合併法人「北京現代」も2017年韓国のTHAAD(高高度ミサイル防衛体系)配備に対する中国による報復によって販売量は大幅に落ち込み、いまだに回復できていません。その二の舞にならないよう現代自動車は有事の際の打開策を見出す必要があります。

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