ブレグジット後のシティ、新タックスヘイブンとデジタルマネー創設?

イギリスのブレグジットの影の扇動者は一体誰だったのか。そしてその本当の狙いは何だったのか。

 

そういったニュースの裏側に迫るためには、世界の裏の経済の中心地である「シティ・オブ・ロンドン」とロンドンを中心としたタックスヘイブンについて知る必要があります。

 

まず世界の裏経済を動かす「シティ」とは一体何なのかを話していきましょう。

 

 

シティ・オブ・ロンドンとは

 

シティは地理的にはイギリスのロンドンにありながら極めて特権的な自治体で、いわばイギリス国内のタックスヘイブン(租税回避地)です。シティは独自の法律と議会と市長を有し、税金も独自に徴収しています。

 

シティは国ではないですが、バチカン市国のようなものと思っていただくといいと思います。ちなみにバチカン市国はカトリックの総本山ですが、もう一方では裏金をマネーロンダリングするタックスヘイブンとしての顔があります。それについては今回は追及しませんが、ロンドンのシティもまた同じような役割を持っています。

 

シティの特殊性を表すものとして有名な逸話がありまして、それは英国王といえどもシティに入る際には、ロードメイヤーというシティの市長の許可を得なければ入れないというのが中世からの慣習になっているということです。

 

 

シティは、1000年前から続く同業組合(ギルド)の共同体で、中世イギリスの都市は国王から下されるチャーター(許可状)によって設立されましたが、シティにはそのチャーターが存在しません。どういうことかというと、フランスのノルマンディー地方からやってきた現在のイギリス王室の開祖ウィリアム一世は、ロンドンの富裕な豪商たちの影響力と重要さを考慮して、シティとは対等な関係を結びました。それ以来、シティに入るには国王ですら、シティの許可を得たうえで武器を置いて入らなければなりませんでした。それは今も同じです。エリザベス女王もシティに入る際は許可を得なければなりません。

 

シティのこのような特権は、ロスチャイルド家やベアリング家などのシティの豪商たちがイギリス王室へ戦費調達などを支援した対価として得ており、それは現在まで慣習法として認められてきました。大英帝国を支えたベアリング家は今はもう衰退をしてしまいましたが、ロスチャイルド家は今もなおシティを動かす重鎮として存在しています。シティの市長ロードメイヤーの官邸「マンションハウス」の隣にロスチャイルドビルが堂々と建っていることがその影響力を物語っているようにも思えます。

 

シティの歴史の詳細は長くなるので別の機会に譲るとして、今回はシティのタックスヘイブンの世界に対する影響力という面からブレグジットの話に繋げたいと思います。

 

シティを中心としたタックスヘイブンの実態

 

現在、シティは世界の外国為替市場の中でも、群を抜いてナンバーワンの地位を保っており、世界の為替取引の約4割が集中しています。その規模は東京市場の約7倍、ニューヨーク市場の約2倍です。

 

シティが世界の金融市場の中心としての地位を確立できているのはパナマ文書流出事件で話題になった「タックスヘイブン」のグローバルネットワークを持っているからこそです。

 

イギリスにはジャージー島、ガーンジー島、マン島の王室属領、ケイマンやジブラルタルなどの海外領土、シンガポール、キプロス、バヌアツといったイギリス連邦加盟国、香港、シンガポールなどの旧植民地などがあり、それらの国や地域と表に裏に協力関係を築いています。

 

シティはそうした国々を経由して裏金を資金洗浄(マネーロンダリング)できる「オフショア金融センター」を持っていることがパナマ文書流出事件以降に世界中に知れ渡りました。

 

シティはその世界規模のネットワークの中心地として世界の本当の支配層のお金を預かり、運用しています。ケイマン諸島やバージン諸島などのイギリスの海外領土のタックスヘイブンに投資をする場合は、一旦シティを経由してお金が流れるようになっています。いわば世界のタックスヘイブンネットワークの心臓部なのです。

 

国際決済銀行(BIS)によると、タックスヘイブンの預金残高は世界の55%(約350兆円)。なんと、世界の富の半分以上がタックスヘイブンに流れていることになります。

 

国際貧困支援NGO「オックスファム」の報告によると、世界のトップ62人の大富豪が世界の富の半分を所有しているといわれており、そういった超富裕層のお金がタックスヘイブンに流されているわけです。

 

そういったタックスヘイブンの総元締めがシティです。シティを中心としたタックスヘイブンネットワークは大英帝国時代の遺産というべきもので、大英帝国は植民地への投資を増やすために、東インド会社やジャーディン・マセソン商会などの植民地の企業の税金を安くしていました。その名残が今もなお世界の超富裕層のために機能しているのです。

 

 

世界の金融市場の中心地はアメリカのウォール街だと思う人も少なくないでしょう。確かにウォール街は、金融取引量自体は世界一ですが、ウォール街の場合、その大半は国内の取引で、アメリカという市場がそれだけ大きいということです。

 

世界的にみると金融市場の総本山はロンドンのシティであり、アメリカのゴールドマンサックスやシティバンクでさえニューヨークはアメリカ国内の営業拠点の一つに過ぎず、ロンドンのシティが国際業務の司令塔になっていました。

 

過去の記事でも紹介しましたが、北朝鮮の鉱山会社「コーメット」もシティにあるロンドン証券取引所で上場しており、そこを活用して外貨を稼いでいます。世界的な経済制裁を受ける北朝鮮の国有企業でさえ上場できるという規制の緩さが他の金融市場と一線を画す要因です。

 

このように表の経済の中心地がアメリカだとしたら、裏の経済の中心地はイギリスにあるわけです。

 

しかし、2008年のリーマンショック以降、EUではマネーゲームを展開する金融資本を規制する政策が追求されていくようになり、タックスヘイブンにもメスが入れられるようになります。パリに本部が置かれる経済協力開発機構(OECD)でも「合法的」租税回避を可能とするタックスヘイブンに対する規制策の立案であるBEPSプロジェクト(Base Erosion and Profit Shifting)が進められています。さらに金融取引税もEU加盟国10か国が2021年に導入予定で、イギリスがEUに残留し続けるとすれば、その導入の影響はイギリスにも及ぶことが考えられます。

 

また、イギリス王室属領のジャージー島、ガーンジー島といったシティ直結のタックスヘイブンも規制の標的とされました。シティの金融資本のなかには、こうしたEUにおける金融規制をきらって、離脱を支持した潮流が存在したと考えられるのです。

 

実際、ブレグジットを推し進めたジョンソン首相はタックスヘイブン擁護派のようであり、2019年12月の総選挙で大勝した後に、タックスヘイブンの一つである、イギリス王室属領のガーンジー島の政治家のトップに今後はより緊密な関係を築きたいと手紙を送っていることが明らかになっています。これは金融規制を受けない新たなタックスヘイブンを共につくっていこうという意思表明とも受け取れます。

 

新たなデジタル・タックスヘイブン

 

シティが今後どのようなタックスヘイブンをつくっていくのかはまだ明白ではありませんが、世界を駆けまわるライターの高城剛氏によると、パナマ文書で問題になったバージン諸島やケイマン諸島のようなタックスヘイブンを、サイバー空間で作る構想が着々と進んでいるといいます。

 

実際に全ての記録がデジタルデータになれば、パナマ文書のように文書の形で流出したりする心配もありません。それをブロックチェーン技術でしっかり管理すれば尚更のことです。

 

ブロックチェーン技術といえばビットコインを支える分散型台帳技術として有名になりましたが、ビットコインもマネーロンダリングのために使われてきたのは公然の秘密です。

 

そしてブロックチェーン技術は仮想通貨だけでなく、他の様々なことにも使えます。例えば、先進的なスイスのツーク市ではブロックチェーンを活用した投票を実証実験しています。これが広まれば世界中でスマホ投票が広がるでしょう。ブロックチェーンでハッキングの恐れがなくなるからです。

 

こういった金融とIT技術が融合した業界フィンテック(ファイナンシャル・テクノロジーの略)の中心地がロンドンにあるわけですが、それはタックスヘイブンに支えられる世界の金融の中心地がシティにあるからです。

 

スイスもまた世界有数の金融立国で、フィンテック業界がかなり盛んで、なおかつタックスヘイブンであることは有名ですが、秘匿性の高いことで人気だったスイスの銀行でさえもアメリカ政府の圧力によってアメリカ人の口座の開示を許してしまいました。タックスヘイブンが原因でアメリカ政府は年間で10兆円もの税収を失っており、タックスヘイブンへ逃げるお金をどうにかするべく、スイスに圧力をかけました。

 

外国政府の圧力や金融規制に苦しめられそうになっていたという意味ではシティもスイスも似たような構図ですが、どちらもフィンテックが盛んで、新たな金融世界をつくろうとしているのも同じです。

 

どちらもブロックチェーン技術で守られるデジタル版のタックスヘイブンをつくろうとしているのかどうかはまだ断定はできませんが、その可能性は十分にあります。

 

ちなみに、シティにあるイギリスの中央銀行、イングランド銀行のカーニー総裁はドル支配終わらせるデジタル基軸通貨体制を提唱しています。最終的にはフェイスブックが計画している「リブラ」のような仮想通貨が準備通貨としてドルに代わることになるとの考えを示しています。

 

総裁がこのように公言しているのですから、イングランド銀行かもしくはそれに近い機関がデジタル通貨を作って、世界共通通貨に仕立て上げることも考えられます。日本でも三菱UFJが仮想通貨を発行しようとしていますよね。金融の総本山のシティからも何かしら仮想通貨がつくられるのは必然でしょう。

 

そういったデジタル通貨や新たなデジタル・タックスヘイブンが絡んでイギリスは更に大きな金融市場をつくるかもしれません。

 

 

最近ではそこに中国資本が絡んできている模様です。前回の記事でも触れましたが、ジョンソン首相は親中でイギリスをヨーロッパの中で、中国にとって最も開かれた市場にするとも公言しています。

 

シティの行政責任者もまた中国に対して好意的にこう話しています。

 

「中国は名目国内総生産(GDP)で世界第2の経済大国であり、2030年までにいくつかの推計で第1位になる。 世界に進出し、通貨を国際化し、金融サービス部門を開放するという中国の計画はパートナーとしてロンドンを優先し続けることを意味する」

 

「長期的には、特に人民元の国際化を通し、そしてある程度、習近平国家主席のインフラ経済圏構想“一帯一路”イニシアチブを通じて、中国が世界の舞台でより重要なプレーヤーになることを否定する人はほとんどいない」

 

このようにシティは中国資本をテコにして、デジタルタックスヘイブン、デジタル通貨を武器に新たな金融帝国を築いていくのではないかと考えられます。

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