イギリスのEU離脱の影響は?ブレグジットで英国解体か?

2020年1月31日にイギリスが正式にEUから離脱(ブレグジット)することになりましたが、そうなると今後イギリスはどうなるのでしょうか。

 

かつての大英帝国の栄光は完全に失われ、このまま没落の一途を辿ってしまうのでしょうか。

 

今回はイギリスの未来を知るべく、EU離脱後のイギリスの政治経済がどのように変化するのかを整理してみようと思います。

 

 

外資系企業が逃げる

 

ロンドンにはシティという金融街があります。米国のウォール街と並ぶ世界の金融の中心地です。世界の金融機関はEU域内のどこか一つにでも営業免許を持っていれば、ドイツでもフランスでもEU圏内で営業ができる仕組みになっています。日本の金融機関もその仕組みを利用して、ロンドンのシティに事業拠点を構えていました。

 

しかし、イギリスがEU離脱をするとなるとこの仕組みは使えなくなり、イギリス国内でしか営業できないようになります。それを見越して各国の金融機関は既に拠点をドイツのフランクフルトやフランスのパリなどに移しだしているようです。日本の金融機関も動きが早く、三井住友は2017年に欧州の拠点をフランクフルトに移転しました。みずほもまた証券の拠点をロンドンに構えていましたが、フランクフルトに移転し、三菱UFJは証券業務の拠点も英国からアムステルダムに移転しました。

 

金融業界より大変なのは製造業界です。イギリスとEU間の輸出入にはすべての関税がかかるようになり、税関検査で品物を一つ一つ検査しなければならなくなります。そうなるとイギリスを拠点にEU圏内でビジネス展開する企業にとって不都合になります。例えば、イギリスに拠点を置きヨーロッパ大陸から部品を輸入してイギリスで組み立てていた自動車工場は部品の調達が遅れ、製造ラインのスピードも遅くなることが考えられます。

 

イギリスに日本企業が1000社ほどあるそうですが、前提としていたEUの玄関口という機能が崩れるために、いくつかの日本企業はイギリスからの撤退を公表しています。例えば、日産が新車種の製造をサンダーランド工場から日本に切り替えると発表しましたし、ホンダもイギリススウィンドンにある工場を2021年に閉鎖すると発表しました。

 

ホンダは閉鎖の原因をブレグジットだとは明言していませんが、実質そうであると考えていいでしょう。ホンダ工場の閉鎖に伴い、スウィンドンでは3500人の従業員が解雇となる見通しです。さらにホンダ車の部品下請け業者も影響を受け、中にはホンダからの受注が100%のところもあるので、総計で1万人の失業者が出るのではないかともいわれています。

 

イギリスから撤退、もしくは縮小しようとしているのは日本の自動車メーカーだけではありません。ほかにも、インドの自動車大手タタ・モーターズの子会社でイギリスの自動車メーカー「ジャガー・ランドローバー」は、4500名(全従業員の10%弱に相当)の人員削減を発表しました。

 

金融、自動車業界以外ではソニーはブレグジット対策としてオランダのアムステルダムで2019年4月に新会社を設立し、パナソニックも欧州本社をオランダに移しています。

 

関税の追加コストや通関手続きが発生するかもしれないので、先を見る日本企業はこのように生産拠点を移動し始めています。

 

イギリスから抜け出そうとしている企業は外資だけではありません。イギリスの製造業界を牽引してきたダイソンもまたシンガポールに拠点を移そうとしています。拠点の移動はブレグジットとは関係なく、今後伸びる市場がアジアにあるとみて、アジアのハブであるシンガポールに移すメリットが大きかったからと話しています。

それは逆を言えば、ヨーロッパは既に伸びしろがあまりない成熟社会ということでもあり、ブレグジットが直接関係していないとはいえ、移民問題やブレグジットなどで混乱状態にあるヨーロッパを見限ったということもできます。

シンガポールを拠点に電気自動業界への参入をしようとして結局その計画は停止されましたが、シンガポールを拠点にすることは変わらず、「ダイソンがセンサー技術やロボティクス、人工知能(AI)など主要ビジネスを拡大することで、シンガポールでのプレゼンスを拡大する意向だ」と話しています。

 

このようにイギリス発祥の製造メーカーはイギリスから離れ、無国籍企業的となり、外資メーカーは続々とイギリスから撤退を表明しているとなると、イギリスの製造業界は今後衰退の一途をたどっていくことが考えられます。

 

 

イギリスがTPPに加入?

 

イギリスがEUから抜けるとなると他国と自由に貿易協定を結べるようになるので、様々な国と自由貿易協定、FTA(Free Trade Agreement)などを結ぶことが考えられます。

EUに加盟している以上はEU単位で自由貿易協定を結ぶことになります。2019年にも日本とEUが貿易協定(日本・EU経済連携協定)を結びましたよね。

 

逆に言えば、EU加盟国がEU本部を無視して勝手に他の国と自由貿易協定を結ぶことはできず、特に規制が強い中国との自由貿易協定を結ぶことができませんでした。

 

そこでEUのくびきがなくなるイギリスは中国と自由貿易協定を結ぶことが考えられます。実際、イギリスと中国はブレグジット後に自由貿易協定を結ぶ可能性について、既にお互い話し合っています。また、イギリスのジョンソン首相は親中であることを公言しており、中国の経済政策「一帯一路」にも熱い支持を示しています。その一帯一路のためにイギリスをヨーロッパの中で最も開かれた市場にしようとしていることも公言しています。

 

また、イギリスがTPP(環太平洋経済連携協定)に加入する可能性もあります。実際、安倍首相はイギリスのTPP参加を歓迎する旨を表明していますし、メイ元首相は参加に意欲を示していました。ジョンソン首相は肯定も否定もしていませんが、可能性は十分にあります。

 

そうなる場合、TPP加盟国であるオーストラリアやニュージーランドはともに英連邦に属する国でしたので、イギリスの参加を歓迎するでしょう。

 

また、イギリスとしてはEUと新たな自由貿易協定を結びたいところで、ジョンソン首相も2020年末までにはEUと貿易協定を結ぶ意向を示しています。しかし、EU側はそれを許さないでしょう。

 

そのEUの思惑を裏付けるようにドイツのメルケル首相はこう発言しています。

「EUファミリーから去ることを決めたものは、義務がなくなって、利益だけそのまま残ると期待することはできない」(2016年6月28日の演説にて)

 

これはイギリスに対する厳しい牽制です。

 

EUから抜けても自由貿易を継続する方法として「ノルウェー方式」があります。

 

ノルウェーはEUと周辺国で作る「欧州経済地域(EEA)」に参加し、この取り決めによって漁業と農業以外の商取引が自由に行えるようになっています。それはイギリスにとっても良い条件のように見えます。

しかし、EEA参加の国々もEUとの自由貿易を代償にEUへの分担金の支払いが義務付けられる上に移民も受け入れる必要があります。イギリスとしてはそれは受け入れがたいので、選択肢から除外している模様です。

 

イギリスもEUもどちらも譲らないのであれば、貿易摩擦は必至です。

 

イギリスに続いてEUを抜ける国は出てくると思われ、各国もEU離脱をマニュフェストに掲げる右派は勢力を強めてきています。EUという理想社会を目指して、団結へと向かっていたヨーロッパは今後は逆に分断する流れになっていくと考えられます。

 

 

英領北アイルランドを実質的な経済特区

 

ブレグジットで特に注目されたのは、英領北アイルランドがどうなるかです。

 

アイルランドと国境を接する北アイルランドの歴史はやや複雑ですので簡単に整理しましょう。

 

アイルランドは過去何世紀にもわたりイギリスの支配下にありましたが、カトリック教徒が大多数を占める南部が1922年に自治領となり、37年に英連邦内の自治領として独立し、49年にアイルランド共和国となりました。その際、プロテスタント系が多い北部6州はイギリスの一部として残ることを選択したため、北と南が分断します。そして北アイルランドはイギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)を構成する一つになりました。

北アイルランドでは、1960年代から英国からの分離独立とアイルランドへの帰属を求めるカトリック系住民と、英国への帰属継続を求めるプロテスタント系住民との対立が激化し、互いの民兵組織によるテロや武力抗争が始まりました。それが北アイルランド紛争です。この紛争により、3000人以上が命を落とす大惨事となります。

 

構図的にはプロテスタント系住民vsカトリック系住民でしたが、問題の本質は宗教ではなく、イングランド系・スコットランド系入植者の子孫(主にプロテスタント)とアイルランド民族(主にカトリック)の民族対立でした。分かりやすくいえば、入植者の子孫が支配層、アイルランド民族が非支配層で、実際に両者の間には大きな経済格差もあったのです。

 

結局、1998年に和平協定が結ばれ、北アイルランドはイギリスに残留することになりましたが、和平の証として、北アイルランドとアイルランド間の国境の行き来が自由かつ安全にできるようになりました。相互の往来を自由にすることで地域の経済を繁栄させるだけでなく、住民間の対立を解消する意図がありました。

 

しかし、イギリス本国のEUからの離脱に伴い、税関が復活するのではないかと騒がれました。物理的な国境管理が復活するとなると、人々に紛争当時を思い起こさせ、税関自体がアイルランド独立闘争を行ってきたアイルランドの武装組織であるアイルランド共和軍(IRA)による攻撃の標的となって、紛争が再発しかねません。

 

税関復活の弊害はそれだけではありません。人によっては仕事などで毎日のように国境を超える人もいますし、家族が国境を越えた先にいるという人も少なくありません。その上、物流の往来もかなり多いので税関が復活すると双方の企業に大ダメージです。税関を再び設けることはそういったデメリットばかりなのです。

 

政府側もそれに関しては最大の懸念事項の一つでしたので、新離脱協定によって北アイルランドだけはEUの関税同盟に実質的に残留させようとしており、アイルランド共和国との国境で検問を実施しなくてすむようにもしています。ただし、法的には、英領北アイルランドは英国の関税領域に属するという措置です。これでとりあえず紛争の火種を消して一安心というわけですね。

 

そうなると北アイルランドとアイルランドに拠点を置く企業はかなり有利になります。例えば、北アイルランドに立地する工場で生産した物品をヨーロッパ諸国に輸出する場合、EU離脱のために今後は関税がかかるようになるわけですが、アイルランド共和国を経由することで、検問を通ることなく、かつ関税を徴収されることなく、EUに輸出できるようになります。逆も然りで、アイルランドから英国本国に輸出したい場合は北アイルランド経由で売れば、関税がかかりません。

 

また、アメリカのトランプ政権がEUに対して自動車などを対象に制裁関税をかけることがあっても「法的には英領北アイルランドは英国の関税領域に属する」と主張することで、制裁を避けることもできるのです。

 

このような利点に気づいた外国の製造業が北アイルランドの首都ベルファストなどに拠点を移す可能性があります。英領北アイルランドは英国本国と比べて人件費も安いこともあり、今後は投資が増える可能性が高いです。

 

そのように経済的なメリットがあるように見える一方で、北アイルランドとアイルランドが合併する可能性も否めません。アイルランドへ帰属を望んでいる住民は少なくないからです。イギリスから独立を望んでいるのはスコットランドも同様で、イギリスが解体されていく可能性もあります。

 

 

スコットランドの独立はどうなるのか

 

では、そのスコットランドの独立問題がどうなるのかをみていきましょう。

 

スコットランドがイギリスからの独立を問う住民投票を行ったのは2014年のことで、まだ記憶に新しいと思います。その際、独立賛成が45%、反対が55%という僅差で反対派が上回ったので、結局独立を果たせませんでしたが、ブレグジットに反対でEU残留派が多いスコットランドとしてはイギリスからの独立を再度狙っています。

 

独立派の代表的な人物を挙げると、スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相がいます。2019年12月に行なわれた総選挙では、スタージョン首相率いるスコットランド国民党(SNP)がスコットランドの独立を公約に掲げることで、13議席を積み増して、48議席の勢力になりました。

 

そもそもなぜスコットランドでEUに残留したがっている人が多いのかというと、スコットランドの経済は北海油田から得られる石油やスコッチウイスキー(2018年度のスコッチウイスキー輸出額は日本円にして約7000億円)の輸出などに支えられているので、EUに残留したままヨーロッパに非関税で輸出するほうが得策だと考えているからです。

 

しかし、イギリスの2019年12月の総選挙において保守党が大勝利したことによって、スコットランドの独立はほぼ不可能になりました。なぜなら独立を問う住民投票を実施するには英議会の承認が必要で、議席の過半数を握るジョンソン首相は住民投票を認めない方針を明らかにしているからです。

 

それに対し、スコットランド側は住民投票が実現できないのであれば、せめてEUへの実質的な残留だけでも勝ち取ろうと、北アイルランドと同様の位置づけ、つまり事実上の経済特区になることを要求することが考えられます。

 

また、次の総選挙で独立容認派の議席が増えれば、再度住民投票が行われ、独立する可能性も十分にあります。

 

 

イギリスが更に飛躍する可能性

 

こう見ると、製造業が廃れ、国内が分断する可能性を孕んでいるイギリスは衰退の一途を辿っていくように思えます。

 

かつての大英帝国の威光が失われてしまったのは今に始まったことではありませんが、今後の明るい見通しもないようにも見えます。

 

しかし、イギリスには残された強みがあります。それは金融業です。

 

ブレグジットを見越して外資系金融会社が撤退をし始めているとはいえ、ロンドンは実質ウォール街を凌ぐ世界一の金融市場であり、タックスヘイブンの中心地でもあります。

 

 

むしろイギリスは製造業を捨ててでも、金融業に集中して更に飛躍するのではないかという見方もあります。

 

むしろ金融の総本山であるシティ・オブ・ロンドンがEUの金融規制を避けるためにメディアを使って大衆を煽って、EU離脱を画策した可能性もあり、金融規制が全くない新しいデジタル・タックスヘイブンをつくろうとしているのではないかとも囁かれています。

 

次回の記事では、金融の総本山のシティ・オブ・ロンドンとタックスヘイブンの実態に迫り、今後の動向を探っていこうと思います。

 

ブレグジット後のシティ、新タックスヘイブンとデジタルマネー創設?

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