フランスのパリ市は水道事業を一部民営化していましたが、2010年に再公営化を果たした後に、45億円のコスト削減の実現、市民参加型の新たな事業モデルの構築、植林活動、発電事業などへの事業拡大など民主主義的な公営モデルとして世界的に注目されています。
パリはなぜ水道事業を再公営化し、具体的にどのような新モデルを作っていったのかをご紹介しましょう。
なぜパリは再公営化したのか?
フランスのパリ市は水道事業を1985年に民営化して以来、25年で水道料金が倍以上に膨らみ、サービスの質は悪化する一方でした。それもそのはず、財政は不透明で、競合が存在しない一社独占市場だったからです。
形態はコンセッション方式で、所有権はパリに残して、運営権だけを民間に委託するものでしたが、料金設定や投資の仕方の決定権はヴォエリア社とスエズ社にあり、それらの重要な情報は市民に届けられていませんでした。
実際、再公営化後の調査によって、コンセッション方式時代の利益が過小報告されていたことが判明しました(利益率7%と報告されていたものが実は15~20%もあった)。
水道料金の値上げに対して市民の怒りが爆破寸前のところにまで膨らんだ時に新しいパリ市長候補が「水道公営化」と「任期中は水道料金値上げなし」というマニュフェストを掲げ当選しました。
当選後、市は早速両社に売却した水道事業の株式を買い戻し、市が100%出資の「パリの水公社」
を設立しました。
コンセッション方式時代において、両社が内部留保分としてプールされていた収益の3割、役員報酬と株主配当、法人税分の出費分は公営化によって全て水道サービスの向上と設備更新のために充てられました。
それまで包み隠されていた財政内容や投資計画は市民に情報公開され、透明化されました。そのパリ市の誠実な努力の結果、約45億円のコスト削減に成功しています。
そのパリ市の成功例が話題を呼び、それに続くように世界各地の自治体が再公営化をするケースが増えていて、今も増加傾向にあります。
世界各地で起こった水道民営化でわかったことは企業が第一に守るべきものは消費者の安全ではなく、株主と四半期利益であるということです。水道の場合は、利益にならないような水道設備更新の工事は後回しにされます。災害があれば採算の取れない地域は撤退されてしまいます。
生命の維持に最も重要な水を安価で提供し続けるためには「儲けなくていい公営」にする必要があるのです。
水道公営化がもたらした民主主義
水道公営化後、以下のような市民参加型の仕組みが構築されていきました。
・「パリ監査組織」:市民による第三者機関
この機関には環境団体・消費者団体・住宅管理団体、企業、警察や研究機関など様々な層が参加し、ワークショップや様々なイベントを通して情報共有と自由な意見交換が行われています。そこで出された意見がパリ水公社の運営に反映され、結果は全て公開され、市民にフィードバックされるという仕組みです。
・「連帯基金」:経済的困難から滞納している家庭に3分の1の補助金を出すという地方自治体の資金を元に設立された基金
経済的に困難な家庭に対し、補助金を出すというのは民間企業ではあり得ないことでしょう。公営だからこそできることであり、市民参加型だからこそそのようなアイデアが出されることだと思います。
・「市民参加型予算」:市の設備投資の1割を市民が提案したものに充てる仕組み
これによりパリ市内に40箇所に噴水が作られたり、農薬による水質汚染を防ぐために有機農業農家が支援されたりするなど新しい試みがなされています。
以上のように、水道事業を市民参加型にすることで様々なアイデアが出され、市の予算でそれらが試みられるという好循環が起こっています。
パリ水公社の植林活動や地熱発電などの新プロジェクト
パリ水公社は水道事業に留まらず、様々なプロジェクトがなされています。
・植林活動:水源を汚染から守るために水源地の周りの土地をパリ水公社が買い取り、その土地で植林をするなどして環境を維持するプロジェクト
・地熱発電:地下水から汲み上げた温水を利用した地熱発電に取り組み、その温水をパリ市が再開発を進める「エコ地区」で家庭用に提供するプロジェクト
このように水道を公営化することで他の公共サービスも新しい変化を起こした自治体はパリだけではなく、他国でもあります。それらの例は効率化とサービスの向上は民営化せずとも十分に実現可能であることを証明しています。
それだけでなく民意に沿う形で事業の幅を拡大し、様々なアプローチの実践を通して、より環境に優しく、市民にとって住みよい街を作れるのです。
日本も安易に民営化するのではなく、パリ市のような民主主義的な公営モデルを構築していくべきでしょう。
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