現代のシルクロードとも言われる中国の「一帯一路」構想ですが、参加国が120ヶ国以上だとされる一方で、同構想に危険視し距離を置いている国も少なくありません。
今回の記事では中国の「一帯一路」構想に反対、もしくは懐疑的な姿勢を見せる国をご紹介します。その反対派が指摘する問題点を知ることで一帯一路構想の全貌が明らかになるでしょう。
インド
インドは上海協力機構とAIIB(アジアインフラ投資銀行)の加盟国ですが、一帯一路に関しては懸念を示しています。
というのも2017年5月13日、一帯一路の一部である「中国・パキスタン経済回廊」がインドとパキスタンの係争地のギルギット・バルティスタン州を通ることに対してインドは「主権と領土保全における核心的な懸念を無視した事業計画を受け入れる国は一つもない」と批判する外務省の声明を発表しているのです。
さらにインドは一帯一路国際協力サミットフォーラムからのインド首相らへの招待を拒否して、フォーラムを世界で唯一ボイコットした国になりました。2018年6月の青島での上海協力機構の首脳会談でもインドのモディ首相は一帯一路に反対の意思を表明しました。
また、インドの戦略研究家ブレーマ・チェラニーは、スリランカが中国に背負わされた負担に関して、日本によるプロジェクトの金利は0.5%なのに対して一帯一路など中国人によるものは6.3%もするスリランカの例を上げて、一帯一路は『債務のワナ』と指摘しています。
実際スリランカは建設費のほとんどを中国の融資で完成させたインフラに赤字が続いて、中国への11億2000万ドルの借金帳消しを条件に2017年12月に株式の70%を引き渡し、その結果南部のハンバントタ港に99年間の港湾運営権を中国企業に譲渡する事態に陥りました。獲得された港を軍事利用することを企んでいるのではないかと警戒されています。事実、中国の潜水艦がスリランカの港に2度寄港していることが明らかになっています。
そのこともありインドは一帯一路に付随する軍事的脅威に対しても危惧しています。具体的には「真珠の首飾り戦略」を掲げる中国の軍事的脅威を警戒しています。
「真珠の首飾り戦略」とはマラッカ海峡とペルシャ湾を結ぶインド洋の海上交通路沿いの国の港湾整備を支援する戦略のことでインドを取り囲む形になっています。
真珠の首飾り戦略の目的は
- インド洋における制海権
- 海上におけるインド封じ込め
- 日本、台湾、韓国などの中東往来のタンカーなどの海上封鎖
- パキスタン、バングラディッシュ、ミャンマーに展開する中国が整備した貿易港から陸上経路での中国内陸部への石油輸送
などが考えられています。
インド洋を自国の勢力圏とするインドとしては中国に「真珠の首飾り戦略」を展開されるのは面白くないのは当然です。もともと中国とインドは仲が悪く、1962年に国境紛争を起こしている間柄でもあるので、この海上で両国が衝突することが起きても不思議ではありません。
モルディブ
インド洋の島国モルディブもまた中国にとってインド洋の地政学的要衝に位置する場所ですが、現時点ではモルディブのトップは中国に対して懐疑的です。
もともとモルディブは中国とベッタリの関係でした。モルディブの国際空港と首都マレを結ぶ橋の総工費の大半を中国が負担し、その橋には「中国とモルディブの永遠の友情」と記されています。しかし、モルディブの大統領選で野党モルディブ民主党のイブラヒム・ソリ氏が親中派のアブドゥラ・ヤミーン氏を破りました。
中国が関係する事業での汚職と過度なインフラ整備が政権交代の大きな要因になったとされています。そして新しくトップとなったソリ氏は「中国との事業契約を全て見直す」と表明し、対中債務を減らそうとしています。
ソリ氏はインドとの関係も近いこともあり、中国との距離を置く代わりにインドとの関係をさらに深めようとしていると考えられます。インドもまたインド洋を自国の勢力圏と見なし、モルディブと中国の接近を危惧し、モルディブの大統領選ではインドの情報機関が数千万ドルを投じ、親インドのソリ氏の勝利に貢献したといわれています。
マレーシア
マレーシアもまた一帯一路に参加をしながらも距離を置きはじめている国の一つです。マレーシア政府は中国の国営企業と共同で進められてきた「東海岸鉄道計画」について、規模を大幅に縮小した上で再開する旨を発表しました。
「東海岸鉄道計画」は、タイ国境近くからマレーシア西海岸のクラン港まで全長約688キロを結ぶ鉄道を敷設する計画で、中国の「一帯一路」の重要事業とされていました。しかし、東海岸鉄道計画についてマハティール首相はナジブ前政権が中国から借り入れた事業費が「財政を圧迫する」と批判し、事業計画の見直しを求めました。そして同計画における総工費の当初の予定の約3分の2である440億リンギット(約1兆2000億円)に縮小することで中国側と合意しました。さらに工事の利益を地元にも落ちるようにしているようです。
マハティール首相が2018年8月中国訪問時に習近平氏との会談の際に一帯一路に関して「新植民地主義は望まない。貧しい国々は豊かな国々と競争することができない」と世界メディアを前に痛烈に非難しました。といってもマレーシアが一方的に中国との共同計画を中止すれば多額の違約金が発生し、財政負担が増す恐れがあったため、水面下で再交渉をしていたようです。その結果が東海岸鉄道計画の事業縮小です。マハティール首相は批判をうまく活用し、中国との絶妙な距離を作ることに成功しました。
それ以降マハティール首相は中国への態度を変えて、2019年4月下旬に開かれた第2回一帯一路国際フォーラムに参加し、さらに、人民大会堂で習国家主席に迎えられたマハティール首相は、「一帯一路は偉大なイニシアチブだ」などと持ち上げました。
このように外交戦術が上手なマハティール首相ですが、中国にとって好ましくないのは第二、第三のマハティール首相が他の国で現れることです。マハティール首相と同じように事業縮小を交渉しようとする国が増えると中国にとって面白くありません。マハティール氏のようにうまく交渉ができないにしても債務漬けにされ貿易港を乗っ取られないように対策を打つ国が増えるのは間違い無いでしょう。
アメリカ
今まさに中国との貿易戦争が過熱しているアメリカですが、貿易戦争が始まる前のトランプ大統領の訪中の際は習近平総書記と一帯一路への協力で一致し、共同投資プラットフォームの構想もありました。
しかし、貿易戦争が始まって以降は一帯一路に対する批判を強め、2019年4月25日に第二回の一帯一路国際協力サミットフォーラムが北京で開催されましたが、前回参加した米国は出席を見送りました。貿易摩擦が続く限りは一帯一路に対して協力することはないでしょうが、トランプ大統領から違う大統領に変われば事態はまた一変するかもしれません。現時点のトランプ大統領の方向性を踏襲する流れが続けば世界は中国主導の一帯一路経済圏と旧来のアメリカ主導の経済圏の両極に世界は分かれることになりそうです。
中国に借金漬けにされるその他の国
米シンクタンク「世界開発センター」が2018年3月に発表した債務調査によると、中国による借金漬けリスクがある国として、ジブチ、モルディブ、パキスタン、キルギス、ラオス、モンゴル、モンテネグロ、タジキスタンが挙げてらレテおり、スリランカにおける借金漬けのような事態が起こると懸念されています。
例えば現在中国からの債務返済に苦しめられているトンガのポヒバ首相は、中国が国家資産を差し押さえる可能性について警戒しています。
ポヒバ首相は対中債務額が1億1500万ドルに上るトンガのような国々は、スリランカのように資産を明け渡さざるを得なくなるかもしれないと示唆しました。
中国は「債務漬けはない」と力説していますが、トンガやスリランカのように中国によって債務漬けにされている国は少なからずあります。むしろそのような国は今後増えていくことでしょう。
一帯一路の問題点まとめ
各国から様々な批判を受けている「一帯一路」ですが、そのデメリット・危険性は
- 債務漬けの危険性
- 港が中国国有企業に乗っ取られ、軍事利用される恐れ
の二点にまとめることができます。
中国の一帯一路構想には中国が世界各国の政治・経済面で影響力を発揮したい狙いが見え隠れしています。
ファーウェイの5Gシステムを世界中に導入し、中国政府が自由に諜報できるようにしているという話もありますが、あながち間違いでは無いのかもしれません。その詳しい話は以下の記事でご紹介しています。