海洋プラスチック問題は世界的な大問題です。その現状を伝える衝撃的な写真をご紹介します。
写真を紹介する前にプラスチックなどの海洋に流れ出たゴミが自然に分解されるまでの時間をお伝えします。
上記のうち、よく使われるレジ袋は比較的短いですが、ペットボトルは強度が強い分、分解にかかる年数がかなり長いです。400年ということは仮に昔からペットボトルが存在するとして、江戸時代初期に流れ出たペットボトルが現代になってやっと分解されるということです。
そして今日、海に年間少なくとも800万トンものプラスチックごみが流れこんでいるといわれていて、これをジャンボジェット機の機体の重さに換算すると、1年間に約5万機分の重さのごみが海に流れていることになります。そして海には既に1億5000万トンものプラスチックごみがあるといわれています。
それほど大量の海洋のプラスチックゴミが分解されるまで数年〜数百年間、海を漂流するとなると海洋生物への影響も計り知れません。ということで、今回はその生物への影響を示す写真をご紹介していこうと思います。
漁網に絡まって溺死したオサガメ
上の写真のように漁網に絡まって溺死する海の生物の報告は多数あります。漁網といえば昔は麻などの天然素材でできていましたが、今ではほとんどがナイロンやポリエチレン製です。プラスチック製の漁網の方が低価格かつ軽量なので漁業関係者に大歓迎されました。しかしプラスチック製の漁具はとても頑丈なため、それに絡まってしまった動物は脱出ができず、自由に身動きが取れないために食べ物を食べることができず、もがき苦しみ、疲れ果て、やがて死んでしまいます。
世界でもっとも多くのゴミが漂う海域と言われる「太平洋ゴミベルト」は米国カリフォルニアとハワイの間にあり、面積は日本の倍以上ですが、その太平洋ゴミベルトに漂う7万9000トンのうち46%は化学繊維の漁網が占めているということが明らかになりました(参考記事:「太平洋ゴミベルト、46%が漁網、規模は最大16倍に」National Geographic)。
それほど多くの漁網が海を漂っているのですから、どれほど多くの生物が犠牲になっているのかは計り知れません。発見されているものはほんの氷山の一角でしょう。
プラスチックを間違えて食べる生物たち
北西ハワイ諸島のミッドウェー島で、死んだアホウドリの幼鳥の胃からプラスチックが見つかりました。5歳程度までの若いアホウドリは1年中海上で暮らし、魚やイカ、オキアミなどを食べます。それらを捕食するために潜水をしますが、その際にプラスチックゴミも一緒に食べてしまうことがあるのでしょう。
アホウドリだけでなくウミガメもプラスチックを間違えて食べてしまい、それらが胃の中にとどまって満腹と勘違いして食事を摂らずに餓死してしまうこともあるという話もあります。プラスチックを摂取している割合はウミガメで52%、海鳥で9割に達していると推測されています(参考記事:「第4回 海洋プラスチックごみの問題と、 解決に向けて私たちができること」NTTグループ)。
それは海鳥やウミガメだけの話ではなく、クジラなどの大型生物もそうです。
インドネシアの東部の海岸に打ち上げられたマッコウクジラの死骸から、115個のカップ、25枚のビニール袋、複数のペットボトル、2個のサンダル、1000本を超えるひもが入った袋など、恐ろしいほど大量のプラスチックごみが出てきた。(引用元:「クジラの体内から重さ6キロのプラスチックごみ」NATIONAL GEOGRAPHIC)
プラスチックゴミは海に生きる全生物に何かしら影響を及ぼしていると考えていいでしょう。
ハワイ沖を漂うマイクロプラスチック
上の写真は米国ハワイ島キホロ沖の表層海水から採集されたもので、海水にまぎれていたプラスチック片とカワハギの仲間が写し出されています。
ハワイの海には、海流や風の影響で多くのプランクトンが集まるために魚もたくさんやってきます。しかしそれと同時に、色々な場所から海流に乗ってごみも集まってきます。中でも多く見つかるのがプラスチックです。
「比較的少量のサンプルの中からもこれほど多くのプラスチックが見つかるとは、ちょっと驚かされました」
と、この写真を撮ったナショナル・ジオグラフィック関係者の写真家デビッド・リトシュワガー氏は語ります。
上の写真は比較的小さいプラスチックごみの集まりです。小さいプラスチックゴミの中でも紫外線や摩耗の影響で細かく砕かれた5mm以下の小さなプラスチック片は俗に「マイクロプラスチック」と呼ばれます。
マイクロプラスチックもまた多くの海洋生物の体内から発見されており、生態系への悪影響が懸念されています。また魚だけでなく、私たちが口にする食塩にの9割からマイクロプラスチックが検出されています(参考記事:「9割の食塩からマイクロプラスチックを検出」NATIONAL GEOGRAPHIC)。そのため人の糞にもマイクロプラスチックが発見されています。
マイクロプラスチックの人体への影響はまだ明らかにされていませんが、多くの識者に懸念されています。
海底に覆いかぶさるプラスチックゴミ
海底に沈むプラスチックゴミも無視できません。北米の廃棄物管理データによれば、およそ66%のプラスチックごみは海水よりも軽いので海上を漂流し、残りの34%は海水より重たいため沈み、海底に堆積していきます。しかし軽くて海の表面に浮くプラスチックごみでも付着する生物や他の重たいプラスチックが絡まるなどして結果的に重くなり、その多くが沈んでいきます。
その沈んだプラスチックゴミの海の動植物へ甚大な悪影響を及ぼします。
例えば、プラスチックゴミで海底が覆われると間隙水(堆積物中の水のこと)の交換が悪くなり,堆積物中の酸素濃度が減少することが判明しています。また、サンゴや海藻は海洋ゴミに光を遮られてうまく光合成ができなくなってしまいます(参考記事:「海底が窒息.覆い被さるプラスチックごみ」プラなし生活)。
珊瑚礁は多様な海の生物の住処になりますし、海藻は酸素の供給源で水の浄化の役割も持っているので、プラスチックゴミがそれらに悪影響を及ぼすとなると海の生態系へのダメージが計り知れません。
希望はプラスチックを分解する微生物
これだけ海の生態系に悪影響を及ぼすことが判明しているプラスチックゴミですが、そのプラスチックを分解するという微生物が近年になって発見されて、一つの希望になっています。
参考記事:「プラスチックを「食べる」酵素に賭ける リサイクルの未来」
この記事によると、ペットボトルの原料ポリエチレンテレフタラート(PET)は、自然環境下では分解されるのに何百年もかかりますが、日本の科学者が発見した”PETase”と呼ばれる酵素は、PETをたった数日で分解し始めることが判明しており、そのPETaseという酵素はPETを食べる細菌から見つかったそうです。
詳しい話は記事を見ていただきたいのですが、早い話このPETaseを転用し大規模活用できるようになればプラスチック管理の転換点の始まりになり、プラスチック問題の解決策の一つになると期待されています。
しかし現状は微生物の分解があるといえど、それに追いつかないほどの大量のプラスチックゴミが海を漂い、今も海洋生物に悪影響を及ぼしています。それが巡り巡って私たちの体内にもマイクロプラスチックという形でやってきています。
微生物の分解の話はあくまで一つの解決策に過ぎず、やはり大事なのはこれ以上海へ流すゴミを増やさないことです。
まずはプラスチックゴミが自然界に及ぼす影響を現実視して、プラスチックをなるべく使わないという姿勢を持っていくということが重要です。
一人一人の小さな変化がやがて大きな変化に繋がります。
G20で海洋プラスチックゴミ問題解決に向けての動きがあったり、世界各国がプラごみを減らすべく様々な政策に取り掛かろうとしている政府レベルの動きを見てわかるように、これから多くの人々の意識の変化が起きてくるでしょう。