世界のプラスチックゴミを受け入れ「世界の廃プラ処理場」と呼ばれた中国は2018年1月、環境改善計画の一環としてプラスチックごみの輸入禁止を発表しました。
日本や欧米などを筆頭にした世界のプラスチックゴミは新たな行き場を求め、その一つとしてマレーシアが選ばれました。
しかしそのマレーシアでも中国のプラゴミ輸入禁止後、プラスチックゴミが倍増するなどしてゴミ問題の重大性が日に日に高まり、マレーシア政府は2018年10月、大半のプラスチックゴミの輸入を一時的に禁止しました。
行き場を失ったプラスチックゴミは果たしてどこに向かうのでしょうか?そして溢れかえるプラスチックゴミ問題の3つの解決策とは一体?
アジアで広がる輸入規制
中国がプラスチック廃棄物の輸入禁止を決めてから次なるプラスチックゴミの行き先はマレーシア、タイ、ベトナムなどの東南アジアが注目されました。しかし、中国が輸入禁止した分のしわ寄せが東南アジアを襲い、プラスチックゴミの処理工場による環境汚染が加速しました。というのも分別されずに汚れた状態で輸入された廃プラスチックを洗浄するために水銀や鉛を含む溶液を使う場合があり、それらが処理工場の周囲に漏れて深刻な環境汚染を引き起こすのです。
ついにマレーシアは廃プラに関連する汚染問題を看過できなくなり輸入制限に踏切りました。他の国々もそれに続くように輸入規制を強めつつある傾向にあります。
例えば、タイは2021年に輸入全面禁止を掲げていますし、フィリピンのドゥテルテ大統領はカナダの不法輸入廃プラを強制送還させるため、駐カナダ大使を召還させるなどして、ごみ問題が外交問題にまで発展する事例もあります。中国輸入禁止後の日本の最大の輸出先であったベトナムも規制に乗り出しました。
中国に代わるプラスチックゴミの行き先と期待されていた東南アジアも規制傾向にあり、世界のプラスチックゴミの行き先は失われつつあります。
先進国の動揺
変わりつつあるこうした世界のトレンドに対して特にプラスチックゴミの輸出に依存していた先進国は動揺を隠せない模様です。
上海のニュースサイト「澎湃新聞」は2018年1月3日付で「中国の外国ゴミ輸入禁止に英国は打つ手なし。焼却もできず、処理能力もなし」と題する記事を報じました。
イギリス以外でもエコなイメージが強いドイツもプラスチックゴミの処理において海外への輸出に頼っていることは多くの人にとって意外な事実かもしれません。
そうした問題を踏まえて、2018年10月、欧州議会にて2021年からの使い捨てプラスチック製品の販売をEU圏内で規制する法案が可決されました。さらにドイツでは2019年1月1日よりリサイクル不可のプラスチック容器などに規制をかける法律「包装法(Verpackungsgesetz)」が施行されました。新たに生産されるプラスチックそのものを減らそうというリデュースの考え方ですね。
ヨーロッパではそのような傾向にある一方で、プラスチックゴミ輸出量トップクラスのアメリカは輸出から埋め立てに切り替えようとしています。
ゴミ埋め立てが増える?
焼却施設が数多く整備されている日本と異なり、アメリカではごみは埋め立て処分されるのが一般的です。
上のデータは少し古いですが、アメリカのゴミの量が世界でも断トツで多く、処理方法は主に「埋め立て」であることが分かります。
その埋め立て大国のアメリカでも、分解されるまで400年以上かかるものもあるプラスチックに関しては、埋め立ては処理方法として適さないとされ、リサイクル資源として多くを中国に輸出してきました。しかしその中国がプラスチック受け入れを停止すると、プラスチックの埋め立て処分に踏み切る自治体が増えてきました。
上の写真は2019年4月からプラスチックの埋め立て処分に踏み切ったバージニア州のごみ処理場です。
もともとアメリカではリサイクルも盛んでしたが、リサイクルは新品を作るよりも高いコストや資源がかかりますし、劣化したプラスチックを再利用するため強度や純度が落ちて「製品価値」は低くなってしまいます。そのためアメリカでもリサイクル市場は縮小されつつあり、リサイクル神話は崩壊しつつあるのです。分別をしっかりして質の高いリサイクル資源を作り、販売することでうまく資源を循環させているサンフランシスコなどの環境先進的な自治体もありますが、それも稀な例です。
では日本のように多くのプラスチックを焼却してしまえばいいのかというと、そうとも言い難い事情があります。いくら高度なフィルターがあれどダイオキシンなどによる大気汚染を0にすることはできません。また、環境団体のグリーンピースによるとごみ焼却施設は作るのに100億円、その後も1年ごとに2億円かかり、30年で寿命を迎えるためにそれだけ自治体に負担が重くのしかかります。つまり経済的にも焼却は持続可能な方法とは言い難いのです。
近年注目が高まるプラゴミ対策法
プラゴミの燃料化
ではプラスチックゴミはどうすればいいのかというと、近年廃プラの利用先として注目されているのが、「RPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)」や「フラフ」と呼ばれる燃料です。
二つとも、廃プラや紙くずといった廃棄物を固め、製造過程で熱を加えられます。そして、圧縮成型された固形燃料がRPFで、薄い膜状に破砕されたのがフラフ燃料と呼ばれます。
もともと廃プラなので低価格な上にプラスチックは石油由来のために発熱量が高く、石炭と比べて二酸化炭素の排出量が少ないことから、石炭の代替燃料としての可能性が期待されており、大手鉄鋼会社や製紙会社などで既に利用されています。
特にフラフ燃料はRPFと比較すると
- 製造ラインのイニシャルコストがかからない
- 製造時に消費される電力量が少ない
- ゆえに環境に優しく低価格
という利点があります。
RPFやフラフ燃料を製造する日本企業も少なくありません。
日本で培ったその処理技術を生かして海外進出する企業もあります。例えば横浜に本社を置くグーン社はフィリピンのセブ島で埋め立てられるだけだった大量の廃プラに着目し、2017年5月から廃プラ処理事業を開始しました。同社はセブ島の廃プラからフラフ燃料を製造し、現地のセメント会社へ販売しています。
このように「ゴミ」から「燃料」に変えることが廃プラ問題の解決策の一つになるでしょう。
道路舗装材への転用
また近年世界的に注目されているのが、廃プラスチックを道路舗装材に活用するリサイクル法です。現在この分野で世界を牽引するのはヨーロッパです。例えば、スコットランドのMacRebur社は廃プラを破砕してアスファルトの「骨材」として利用する技術を開発しました。同社によるとプラスチック混合アスファルトは従来のアスファルトより軽いのにもかかわらず、耐久性が高く6倍も長持ちするといいます。その技術は2016年からイギリスをはじめトルコ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどへ広がっています。
またヨーロッパだけではなくアジアでも同様の動きが見られます。例えばインドはプラスチック混合アスファルトの道路延長が延べ10万キロを既に超えていて、南部のカルナタカ州は道路舗装でプラスチックをアスファルトと混ぜて使用するよう義務化しているほどです。
これほど世界中で新たな動きが見られるということは、海洋汚染や大地を埋め尽くそうとしている廃プラスチックの問題は世界的な問題ということがわかります。
市民革命「4R」
また環境先進自治体として先ほど触れたサンフランシスコ市ですが、そこではプラスチックをなるべく使わないユニークなスーパーがあります。
上の画像のようにハチミツや小麦粉やゴマなどの食品だけでなくシャンプー、ハンドソープなどの日用品も量り売りをし、消費者には容器を持参してもらうという仕組みです。消費者も自分で好きな量を自分で決めれるからいいですよね。
こうした官民をあげた取り組みで、サンフランシスコのプラスチックごみの量は年々減り続けている模様です。
サンフランシスコ市の担当者はこう語ります。
「プラスチックごみをほかに売ればいいという問題ではない。大事なのは、プラスチック製品が本当に必要か、市民に考えてもらうことです。」
市民一人一人が考え、消費を減らせば、生産者側の意識も変わり、世界が少しづつ変わるという考え方ですね。
最近では3R(リサイクル・リユース・リデュース)だけでなく“Refuse(拒否する)”を含めて「4R」が提唱されるようになってきました。
使い捨てのプラスチック容器を市民の側が意識的に『拒否』することで、企業に重い腰を上げさせて、物の売り方を変えていこう、というものです。
現代社会において廃プラ問題は誰一人関係のない人はいないですもんね。環境に優しくするという企業や自治体の努力を見守るだけでなく、市民一人一人も少しづつ行動を変えていくことで世界の大問題が解決へと向かうのでしょう。