自民党の憲法改正草案の3つの大問題!日本独裁国家化が明記!?

安倍晋三首相は「戦後レジームの脱却」を掲げ、憲法改正の必要性を声高に叫んでいます。今月(2019年7月)の参院選の争点の一つにもなっている憲法改正。安倍首相は6月26日の記者会見で「選挙を通じて皆さんにぜひ、(憲法改正の)議論に参加していただきたい」と呼びかけ、憲法改正への強い意欲を改めて示しました。

 

安倍首相は終戦直後の米国占領下で作られた憲法や制度のことを「戦後レジーム(体制)」と称し、その体制からの脱却のために「憲法9条の改正(集団的自衛権の行使可能な条文)」「緊急事態条項の追加」などに意欲を示しています。

 

安倍首相をはじめとする自民党は現行憲法のどの部分を変えたいと考えているのか、そしてその自民党の改正草案の問題点を出来るだけ分かりやすく解説しようと思います。

 

ナショナリズム高揚化を狙った前文

 

まず注目すべきは前文です。前文だけでも大きく変えられています。

 

憲法の前文は、いわば憲法の「顔」でありどういう趣旨の憲法なのかを明示するものです。なのでこれを見ることで自民党がどういう憲法を作っていきたいのかが分かります。

 

現行憲法では、主に人類の平和や戦争の否定、世界との友好などに重きに置いている内容になっていますが、自民党の草案では、「天皇を頂点に置く」ことや「日本の郷土を愛し、日本人であることに誇りを持つ」などといった「愛国心」に重きを置いてナショナリズムを高揚させようとしていることが分かります。

 

現行憲法の前文はここでは割愛して、自民党の草案を見てみましょう。

 

日 本 国 は 、 長 い 歴 史 と 固 有 の 文 化 を 持 ち 、 国 民 統 合 の 象 徴 で あ る 天 皇 を 戴 い た だ く 国 家 で あ っ て 、 国 民 主 権 の 下 、 立 法 、 行 政 及 び 司 法 の 三 権 分 立 に 基 づ い て 統 治 さ れ る 。 我 が 国 は 、 先 の 大 戦 に よ る 荒 廃 や 幾 多 の 大 災 害 を 乗 り 越 え て 発 展 し 、 今 や 国 際 社 会 に お い て 重 要 な 地 位 を 占 め て お り 、 平 和 主 義 の 下 、 諸 外 国 と の 友 好 関 係 を 増 進 し 、 世 界 の 平 和 と 繁 栄 に 貢 献 す る 。 日 本 国 民 は 、 国 と 郷 土 を 誇 り と 気 概 を 持 っ て 自 ら 守 り 、 基 本 的 人 権 を 尊 重 す る と と も に 、 和 を 尊 び 、 家 族 や 社 会 全 体 が 互 い に 助 け 合 っ て 国 家 を 形 成 す る 。 我 々 は 、 自 由 と 規 律 を 重 ん じ 、 美 し い 国 土 と 自 然 環 境 を 守 り つ つ 、 教 育 や 科 学 技 術 を 振 興 し 、 活 力 あ る 経 済 活 動 を 通 じ て 国 を 成 長 さ せ る 日 。 本 国 民 は 、 良 き 伝 統 と 我 々 の 国 家 を 末 永 く 子 孫 に 継 承 す る た め 、 こ こ に 、 こ の 憲 法 を 制 定 す る 。

 

自国に対して愛国心を持つことはもちろん大事ですが、自民党がなぜ愛国心を持たせたいのかを考察する必要があるでしょう。政府のプロバガンダによる偏ったナショナリズムの高揚が国民の意識を対外戦争へと導くということが歴史的にも証明されていますから。

 

 

集団的自衛権行使を容認する憲法第九条

 

 

安倍総理は2013年の参議院選開票当日の夜の選挙特番でこう発言しました。

 

「我々は第九条の第一項は変更しておりません」

 

しかし本当に変更していないのでしょうか?

 

まず現行憲法の第九条の条文を見てみましょう。

 

「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」

 

しかし草案を見ると以下のように条文が変更されています。

 

「国 権 の 発 動 と し て の 戦 争 を 放 棄 し 、 武 力 に よ る 威 嚇 及 び 武 力 の 行 使 は 、 国 際 紛 争 を 解 決 す る 手 段 と し て は 用 い な い 。」(「日本国憲法改正草案」より引用)

 

単純に文字面が変わっただけでなく、意味も大きく変わっています。現行憲法は「戦争を永久に放棄する」となっているのですが草案では「武力行使は国際紛争を解決する手段として用いない」=「それ以外には用います」という解釈ができるように書き換えられているのです。

 

さらに草案の第九条第二項には

 

「前 項 の 規 定 は 、 自 衛 権 の 発 動 を 妨 げ る も の で は な い 。」(「日本国憲法改正草案」より引用)

 

と書いてあり、「防衛のための戦争ならする」と解釈ができるのです。

 

 

自衛権はどこの国でもありますし、日本でもあって然るべきでしょう。しかし日本における背景は他国とは違うことを理解する必要があります。

 

あまり知られていない事実ですが、国連憲章の敵国条項ではいまだに「戦争を始める準備をしていると隣国が判断しただけで、日本を攻撃していい」ということになっています。

 

 

さらに日本は自衛権を行使するのに国連の許可が必要とされています。つまり、国際法上では日本には自衛権はないに等しいのです。

 

なので国内法である日本国憲法を変えたところで国際的にはあまり意味がありません。

 

と言っても憲法だけでも自衛権について規定することは意義があるでしょう。

 

大きな問題点はここからです。

 

自衛権を持つことを規定することは何ら問題がありません。しかしそこに集団的自衛権の話が絡むと話が大きく変わってきます。自衛権には個別的自衛権だけでなく、集団的自衛権が含まれるというのが自民党の解釈ですが、安倍内閣は既に国内法で集団的自衛権の行使ができるように安保関連法案を制定しました。

 

この解釈通りにいくと、憲法を草案通りに変えると集団的自衛権の無制約な行使まで合憲ということになってしまいます。

 

つまり草案の第九条第二項の「前 項 の 規 定 は 、 自 衛 権 の 発 動 を 妨 げ る も の で は な い 。」という文言は「集団的自衛権の発動をも妨げるものではない」という解釈もでき、違憲とはし難くなってしまうのです。

 

第九条の改定の本当の目的は集団的自衛権を行使するためだったと言えるのです。自国の防衛のためではなく、同盟国(主にアメリカ)が始める戦争に追随できるようにするためだったのでしょう。それはアメリカから突きつけられるアーミテージ・レポート(対日要求書)で集団的自衛権の行使の要望があったことからも推察できます。

 

 

(※原発の維持推進、オスプレイ配備、TPPの交渉参加、そして改憲と集団的自衛権の行使の容認など、全てアーミテージ・レポート通りに政治が動いています)

 

集団的自衛権の行使が憲法的にも問題がないとなるとどんどん行使される可能性もあります。

 

集団的自衛権の発動の第一要件は「日本に対する武力攻撃が発生したこと、又は日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」とされていますが、アメリカの危機は日本の危機だとか、中東紛争解決は石油確保のため(つまりは国民の生命の確保のため)の急進的な問題などと言って行使される可能性もあります。

 

 

内閣総理大臣の独裁を可能にする緊急事態条項

 

本当に問題なのは第九条よりも第九章の「緊急事態」かもしれません。

 

新しく設けられたこの項目の何が危険なのかというと一旦非常事態が宣言されたら総理大臣に以下の権限が与えられるのです。

 

第九十九条 緊 急 事 態 の 宣 言 が 発 せ ら れ た と き は 、 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ り 、 内 閣 は 法 律 と 同 一 の 効 力 を 有 す る 政 令 を 制 定 す る こ と が で き る ほ か 、 内 閣 総 理 大 臣 は 財 政 上 必 要 な 支 出 そ の 他 の 処 分 を 行 い 、 地 方 自 治 体 の 長 に 対 し て 必 要 な 指 示 を す る こ と が で き る

 

これは端的にいうと戦争や災害などの非常事態の際に総理大臣がたった一人で法律を作り、予算案を作って、行政に指示もできるというものです。

 

この緊急事態の条文によってエグゼクティブ・オーダー(大統領令)を日本でも現実化させたいという狙いがある模様です。エグゼブティブ・オーダーとはアメリカ大統領が議会を通さず法律並みの効力をもつ命令を下せる大統領特権のことですが、本家のアメリカのエグゼブティブ・オーダーは行政令であり立法ではありません。ところが自民党の改憲草案では内閣総理大臣に事実上立法権まで持たせるというものですから民主主義国家においては世界でも例のない条文です。

 

この特権があれば極端な話、消費税増税や集団的自衛権の行使など世論を気にせず、議会に通すこともなく自由にすることができます。

 

非常事態といえば一般的な感覚なら戦争やクーデターが起こった時を想定するでしょうから、そう簡単には起こらないから大丈夫と安心する人も少なくないでしょう。

 

しかし実は第九十八条において

 

内 閣 総 理 大 臣 は 、 我 が 国 に 対 す る 外 部 か ら の 武 力 攻 撃 、 内 乱 等 に よ る 社 会 秩 序 の 混 乱 、 地 震 等 に よ る 大 規 模 な 自 然 災 害 そ の 他 の 法 律 で 定 め る 緊 急 事 態 に お い て 、 特 に 必 要 が あ る と 認 め る と き は 、 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ り 、 閣 議 に か け て 、 緊 急 事 態 の 宣 言 を 発 す る こ と が で き る 。

 

こう記載されているので、東日本大震災のような自然災害が起こると非常事態宣言を発令できてしまうのです。台風による土砂災害なども自然災害です。自然災害が多い日本においてこの条文が組み込まれれば容易に非常事態宣言を発令できるので、これは大問題といえるでしょう。

 

その内閣総理大臣の独裁性を裏付けるように第六十五条の改定もしようとしています。

 

「行政権は、内閣に属する(現行憲法)」→「行 政 権 は 、 こ の 憲 法 に 特 別 の 定 め の あ る 場 合 を 除 き 、 内 閣 に 属 す る(改正草案)」

 

現行憲法から何故に「こ の 憲 法 に 特 別 の 定 め の あ る 場 合 を 除 き 」を加えたのか?特別な定めとは何を指すのか?意味深ですが憲法内をよく確認しても「特別の定め」が何なのか分かりません。

 

実はその「特別の定め」は自民党の憲法改正草案に関する『Q&A』を読まないと分からないように作られていました。その時点で草案として不備があるのですが、その特別の定めの中身を見るとなぜあえて草案ではなく人目に触れづらい『Q&A』だけに書いたのかが分かります。

 

【自民党憲法改正Q&A】

Q29

草案65条の「この憲法に特別の定めのある場合を除き」とは、何を指しているのですか?

草案 65 条で「この憲法に特別の定めのある場合を除き」としたのは、草案 において、内閣総理大臣の「専権事項」として、次に掲げる 3 つの権限を設け たことに伴うものです。

① 行政各部の指揮監督・総合調整権(72 条 1 項)

② 国防軍の最高指揮権(9 条の 2 第 1 項、72 条 3 項)

③ 衆議院の解散の決定権(54 条 1 項)

以上の 3 つの権限は、総理一人に属する権限であり、行政権が合議体としての内閣に 属することの例外となるものです。(自民党憲法改正Q&Aより引用)

 

つまり上の3つの項目においては内閣ではなく内閣総理大臣一人だけに権限を与えるということになります。その権限についての詳細はQ28に書いてあります。

 

Q28

内閣総理大臣の権限を強化したということですが、具体的には、どのような規定を置いたのですか?

現行憲法では、行政権は、内閣総理大臣その他の国務大臣で組織する「内閣」 に属するとされています。内閣総理大臣は、内閣の首長であり、国務大臣の任 免権などを持っていますが、そのリーダーシップをより発揮できるよう、今回 の草案では、内閣総理大臣が、内閣(閣議)に諮らないでも、自分一人で決定できる「専 権事項」を、以下のとおり、3 つ設けました。

① 行政各部の指揮監督・総合調整権

② 国防軍の最高指揮権

③ 衆議院の解散の決定権

(1)行政各部の指揮監督・総合調整権
現行憲法及び内閣法では、内閣総理大臣は、全て閣議にかけた方針に基づかなけ れば行政各部を指揮監督できないことになっていますが、今回の草案では、内閣総理大臣が単独で(閣議にかけなくても)、行政各部の指揮監督、総合調整ができる と規定したところです。

(2)国防軍の最高指揮権
72 条 3 項で、「内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する」と規定 しました。内閣総理大臣が国防軍の最高指揮官であることは 9 条の 2 第 1 項にも規 定しましたが、内閣総理大臣の職務としてこの条でも再整理したものです。内閣総理大臣は最高指揮官ですから、国防軍を動かす最終的な決定権は、防衛大臣ではな く、内閣総理大臣にあります。また、法律に特別の規定がない場合には、閣議にかけないで国防軍を指揮することができます。

(3)衆議院の解散の決定権
54条1項で、「衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する」と規定しました。かつて、 解散を決定する閣議において閣僚が反対する場合に、その閣僚を罷免するという事例があったので、解散の決定は、閣議にかけず、内閣総理大臣が単独で決定できる ようにしたものです。自民党憲法改正Q&Aより引用)

 

つまりは特別の定めとは内閣総理大臣が議会を飛び越えて独裁的に行動するためのものだったのです。それも行政権・軍の指揮権・議会の解散を握るという超強大なるもので、アメリカ大統領でさえここまでの権限はありません。世界でこれに匹敵する権力を握っているのは北朝鮮の金正恩委員長くらいでしょう。

 

しかし現実的に考えて内閣総理大臣一人で立法や行政などの運営をすることができません。そこでアドバイザーとして官僚が入ってくるでしょう。例えばアメリカの軍産複合体(戦争をビジネスとする政治経済の連携システム)とべったりとよく言われる外務省がアドバイス係となれば、軍産の意思が外務省を通してそのまま内閣総理大臣の行動に反映される可能性が高くなります。

 

そうなると日本にも戦争に加わってほしい勢力(アーミテージなど)の意思で集団的自衛権の発動が増えることになるかもしれません。

 

今回の参議院選挙の主たる争点は憲法改正の是非についてですが、投票する前にこの記事で挙げたような自民党の憲法改正草案の中身をしっかり吟味してから投票した方がいいでしょう。

 

私個人的にはこのまま自民党草案で改憲されるとすれば、民主主義は崩壊へと向かうと思います。一人一人がよく考えて、それらの民意がうまく反映されるような社会が理想だと思いますがその理想社会とは全く逆方向へ進もうとしているように思えます。

 

日本はこのままどこへ向かうのか。2019年の参議院選挙はその分岐点ではないかと思います。

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