新経済協定TPP11(CPTPP)のメリットとデメリット

201838日にチリで署名式が行われることになったCPTPP(包括的および先進的環太平洋連携協定)。CPTPPはいわば新しいTPPのことです。

 

従来のTPP20162月にニュージーランドで署名式が行われましたが、その頃はオバマ政権時代でアメリカを含む12カ国でした。

 

しかし、トランプ政権に変わってからアメリカがTPPから離脱し、TPP発効は一旦頓挫したものの、アメリカ抜きの11カ国で新しくCPTTPとして話が進められています。

 

協定11カ国:日本、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、ペルー、チリ、メキシコ、カナダ

 

アメリカが入っていた頃のTPPと内容が異なる部分もあるので、それをまとめた上でメリットとデメリットを挙げていきます。

 

TPPからCPTPPになって変わったこと

 

新協定CPTPPになってからは、従来のTPPに含まれていた22項目の効力が凍結されました。これら22項目は主にアメリカが有利になる項目でしたのでアメリカがいないうちに凍結をしたとみられています。

 

その内容は著作権や医薬品開発データの保護期間など、知的財産権に関するものが11項目あり半数を占めています。

 

凍結22項目

・知的財産保護で他国の国民を不利に扱わない規定の一部

・既存の物の新用途や植物由来の発明に特許を与える規定

・特許審査手続きが大幅に遅れた場合に特許期間を延長

・医薬品の販売承認手続きが遅れた場合に特許期間を延長

・新たに開発した医薬品に関する非開示データの保護

・生物製剤と呼ばれる医薬品でーた保護を実質8年に

・映画、音楽、小説などの著作権保護期間を70年に

・音楽ソフトなどの複製防止措置の解除、解除機器販売に刑罰

・著作物に組み込んだ作者などの情報改変に刑罰

・衛星、ケーブル放送の視聴制限を外す機器の販売に刑罰

・著作権侵害に対するインターネット接続業者の免責規定

(ここまで知的財産ルール)

・関税ゼロの「急送少額貨物」の対象を各国が見直す規定

・投資許可の段階で発生した国・企業の紛争解決手続き

・急送便サービスで郵便事業者の独占的地位乱用の禁止

・金融サービス事業者と国との紛争解決規定の一部

・国の決定で不利益を受けた通信会社の再検討請求

・政府調達の外資開放拡大に向けた再交渉時期の規定

・野生動植物の違法捕獲、取引を抑止する規定の一部

・医薬品・医療機器の保険適用続きの公正な実施

・国営石油会社への優遇を段階的に制限する手続き

・石炭産業への投資規制を見直す手続き

 

TPP11(CPTPP)のメリット

 

経済的メリットを挙げたいところですが、実はTPP11を結ぶメリットはそこまで大きくありません。

 

というのも日本は既にTPP加盟国11カ国のうち9カ国と経済連携協定 (EPA:Economic Partnership Agreement)を結んでおり、貿易自由度が100%に近い形でお互いに貿易をしています。

 

日本がEPAを結んでいない国はカナダとニュージーランドだけであり、CPTPPを結ぶことで新しく自由にアクセスできる市場はその二カ国のみとなり、経済を大きく躍進させるには今ひとつインパクトが足りない見通しです。

 

やはり日本やその他の加盟国の本当の狙いはアメリカの復帰にあるように思われます。アメリカがいつでも参加できるように枠を早いうちに作っておこうという算段でしょう。

 

TPP11(CPTPP)のデメリット

 

関税減免でまず懸念されるのはやはり農業分野への影響でしょう。新TPPを結ぶことでカナダとニュージーランドとの関税も減免されることになるわけですが、両国とも農業大国です。

 

カナダの自給率は200%超え、ニュージーランドのそれは400%超えで、農産物、畜産物の輸出も盛んに行なっています。

 

関税が少なくなると市場に安い外国産の食品が多く並ぶことになるでしょう。

 

国内農家はそれに対抗することができるのでしょうか?

 

資本主義社会における弱肉強食のルールといえばそれまでですが、国内農業が衰退し食を外国に依存するとなると、戦争などの有事の際に貿易を止められたら、日本国民は一巻の終わりです。

 

政府は「農産物の価格が下がれば、国内の農家はそれだけ合理化の努力をするので生産量も変わらないから、自給率にも変化はない」と言っています。国内農家を見放したも同然といえるでしょう。

 

もしアメリカも参入するとなると、日本の家族経営農家や地方自治体の事業を担うはずの地元の零細企業が農業における超巨大企業のカーギルやモンサントを相手にすることになるわけです。

 

究極のデメリット ISDS条項

 

旧TPPの時からある条項にISDS条項というのがあります。

 

これは「投資家対国家間の紛争解決条項」(Investor State Dispute Settlement)」の略語であり、簡単に言えばTPP加盟国同士において、多国籍企業が相手国政府や自治体の規制などで不利益を被った場合に訴訟し、賠償を求めることができるというものです。

 

日本はすでにEPA(経済連携協定)で15カ国とISDS条項を結んでいて今まで日本が訴えられたケースは0ですが、アメリカと結ぶことになると大変なことになります。

 

これには恐ろしい前例があり、アメリカ、メキシコ、カナダ間で結ばれたNAFTA(北米自由貿易協定)ですでに採用されており、アメリカに本拠を置く多国籍企業がカナダ政府やメキシコ政府に何百億円の賠償請求をし、勝訴して賠償金をもらっているのです。

 

その内容もかなり理不尽なものです。

 

一例を挙げると

カナダのニューファンドランド州にあったアメリカ資本の会社が工場を閉鎖した後に同州政府が工場跡を接収し、水源と森林伐採地にしたのですが、なんとその閉鎖した会社が水源権と森林伐採権を損なったとして150億円もの損害賠償を起こしました。

これを噛み砕いていうと「あの時、我が社が工場を閉鎖しなければ水源地や森林伐採地として利益が出ただろう。その機会をあんたたち州政府が奪ったのだから保障しろ」ということです。

 

こんなにも理不尽な要求はなかなかないと思いますが、結果は告訴側のアメリカ会社が勝訴しています。

 

他にもこういう理不尽な要求が裁判で認められているケースはたくさんあります。

 

これら共通項を挙げると、米国が被告・原告となった場合は必ずと言っていいほど米国が勝っているということです。それもそのはず、NAFTA におけるISDS条項の裁判所(ICSID:投資紛争解決国際センター)はアメリカのワシントンにあるのです。

 

TPPの大元を辿るとアメリカです。トランプ政権は当初はTPPを離脱すると言い放ったものの、2018年に入ってからはTPPを再検討していると言っています。トランプ氏が加盟しなかったとしても次の大統領がTPPに加盟表明をする可能性も十分に考えられます。新しく締結される日米FTAでISDS条項が持ち出されることもあり得るでしょう。

 

以上のように様々な可能性が考えられ、NAFTAの悲劇を繰り返すことになるかもしれません。(2018年12月追記:新NAFTAではISDS条項が撤廃されました)

 

例えば、日本のある自治体が遺伝子組み換え栽培を禁止したとしても、それに対し遺伝子組み換え技術を持った多国籍企業が営業妨害として訴えることができるのです。

 

(※種子法廃止により遺伝子組み換え栽培が日本でも可能になります。中にはそれを禁止する自治体も出てくるかもしれませんし、それに対して企業が訴えてくる可能性もあるのです)

 

こんなにも滅茶苦茶な条項は後にも先にもないでしょう。

 

自由競争といえば聞こえがいいのですが、この新TPPは巨大グローバル企業がどんどん世界に侵食するための経済協定と言っても過言ではありません。結局、資本力があるものが生き残りやすいのです。

 

これは農業に限った話ではありません。

 

巨大企業だけが潤うような経済協定が本当に社会を豊かにするのでしょうか。

 

資本家による資本家のためのグローバル資本主義。その最たるものといえるTPP

 

このままグローバル資本主義が加速されていくと、自然破壊もさることながら人間社会もどんどん壊されていきます。

 

これからの社会に必要なのは本当にグローバル社会なのでしょうか。

 

それよりも私個人的には地産地消をベースにしたローカル経済の発展が社会を豊かにすると思います。

 

生産する人、消費する人同士で顔が見える社会でこそ、人同士のつながりを感じ、安心して暮らせるはずです。

 

今、グローバル資本主義でもなく共産主義でもない新たな社会について考える時が来ているのではないでしょうか。

 

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