2019年2月1日に発効させる見通しが立てられた「日EU経済連携協定(以下、EPA)」。
そもそもEPAって何?ってこととEPAのメリットとデメリットを挙げていきます。
目次
日欧EPAとは?
EPA( Economic Partnership Agreement)とは、よくFTA(自由貿易協定)と混同されますが、FTAは貿易の自由化だけを掲げたもので、EPAは貿易における関税撤廃・削減だけでなく、知的財産権の保護や投資ルールの整備などを掲げたものです。
EPA自体は以前から存在しており、日本が初めてEPAを結んだ国はシンガポールです。現在他にもメキシコ、インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、インド、モンゴル、スイス、ペルー、チリ、オーストラリアとEPAを締結しています。
今回はEU圏とEPAを結ぶことになり、EU加盟国は現在28カ国(イギリスが正式に脱退すれば27カ国)ですので、締結後の経済的影響はかなり大きいです。
具体的にいうと、世界のGDPの3割、貿易額の4割を占める超巨大な自由貿易圏が誕生するのです。
ちなみにEPAを環太平洋の11カ国に広げたものがTPP(環太平洋パートナーシップ協定)という認識で問題ないです。
それでは日欧EPAのメリット・デメリットを見ていきましょう。
日欧EPAのメリット
- 輸入品の物価が下がる
- 国内商品の物価も下がる
- 物価が安定化する
- 輸出障壁が下がり、企業がより海外で活躍しやすくなる
メリット1:輸入品の物価が下がる
最初のメリットは比較的わかりやすいと思います。関税が撤廃・削減されますのでその分、輸入品の価格が安くなります。欧州からの良質なチーズやワイン、ビールなどが安く手に入るようになるのは嬉しい人も多いのではないでしょうか?私自身もその点は正直嬉しいです。
メリット2:国内商品の物価も下がる
また、輸入品が安くなると価格競争が激化し、国内商品もまた安くなっていくでしょう。国内メーカーは質を一定以上に保ちつつ、生産コストを抑えることに力を注いでいくことが期待されます。コストを下げるために質を下げる企業もあるでしょうから消費者の目利きも大事になります。
メリット3:物価が安定する
そして物価が安い状態で安定化することが予想されます。例えば、日本において異常気象などで農作物の不作が起きても海外からの供給があるので供給量は安定し続けます。そうなると、物価が高騰しにくくなります。
メリット4:輸出障壁が下がり、企業がより海外で活躍しやすくなる
消費者にとっては以上のようなことがメリットとして挙げられますが、生産者側のメリットとしては海外に輸出しやすくなり、より海外で活躍しやすくなります。
上の図を参考にすると、自動車関連や電化製品メーカーの輸出量がより伸びることが予測できます。また昨今海外で注目されつつある日本酒やお茶、醤油などの日本の伝統食も関税が即時撤廃されることから更に広がっていくでしょう。
日欧EPAのデメリット
- 国内酪農業が存亡の危機に
- 食品などの安全基準が緩い
デメリット1:国内酪農業が存亡の危機に
貿易の自由化による猛撃はまず最初に国内生産者に来ます。特に欧州の乳製品が強いので、国内の酪農家が廃業に追い込まれる可能性が高いです。
政府が自国の酪農家を守るのが自然なことですが、こともあろうか日本政府は「改正畜産経営安定法」(2017年6月9日、参院本会議で成立)によって国内酪農家をむしろ窮地に立たせるようなことをしています。
「改正畜産経営安定法」によって、農協が酪農家から生乳を全量買い取るという「指定団体制度」が廃止され、代わりに農協を通さずメーカーに直接売る農家に補助金が出されることになりました。
牛乳は他の食品と違い、日持ちがしないのですぐに売らなければなりません。そのため流通経路を持たない中小酪農家はどうしても不利になります。そんな中小酪農家を守るために「指定団体制度」がありました。間に農協という代理人がいることで中小酪農家は質の高い生乳を作ることに専念でき、安定的に供給することができたのです。そして農協は各酪農家からまとめて買い取った生乳を彼らの代わりとなって複数のメーカーに販売していました。
1965年以降、95%の酪農家は農協に加入し、この「指定団体制度」を通して牛乳を全国に届けていました。
しかし前述したように2017年にその制度は廃止され、農協を通さずメーカーに直接売る生産者に補助金を出すという仕組みに変えられたのです。これは自ら販売網を構築している大企業に有利な法改正です。また、日欧EPAに先んじて法律を変えることで海外メーカーがより有利になるような土壌が作られたと考えることもできます。
水道法の改正然り、またもや海外企業向けの法律が作られたと言えるでしょう。
何はともあれ、日欧EPAによって国内の中小酪農家は更なる窮地に立たされることになります。食品最大手のフランスのダノン社やスイスのネスレ社などの乳製品が今後日本市場を席巻するようになるでしょう。
ちなみにスイスはEUに加盟していませんが、日本は既にスイスとEPAを結んでいます。そして最恵国待遇条項によってEUとスイスの貿易障壁は同じになります。最恵国待遇条項とはTPPやEPAなどの貿易協定の基本ルールの一つで、結んでいる協定が他で協定を結んだ国にも適用されるというものです。
例えば、オーストラリアの牛肉の関税は現在は冷蔵に29・3%、冷凍に26・9%が適用されていますが、EUに対してはそれよりも低い基準で2033年までに9%に下げることになっています。そうなるとオーストラリアは不平等だということでEUの基準にまで関税を下げることができるのです。
つまり、日本とEUで取り決められた関税については、今まで日本が貿易協定を結んだ全ての国に波及するということなのです。
だから今回の日欧EPAで変わるのはEU間の税率だけでなく、オーストラリアやメキシコや東南アジア、南米などの貿易協定を結んでいる国々との税率も変化します。
デメリット2:食品などの安全基準が緩い
輸入品の安全基準がかなり緩く設定されており、海外からの危険な食品が流れ込みやすくなることが懸念されます。これは日欧EPAに限ったことではありませんが「検査証明書の有効期限が1年」というルールがあります。
海外メーカーが食品を日本へ輸出する際に必ず一度は食品検疫所による審査を受けます。日本で認められていない食品添加物の有無、残留農薬値、カビの混入の有無などの観点で審査が行われるのですが、その検査は最初の輸入する際の一回のみで、それ以降は1年間検査なしで輸入することができるのです。
1回目が問題なかったからといって、2回目以降が問題ないとは限りません。2回目の輸入される加工品に日本では禁止されている添加物が新しく付け加えられているかもしれませんし、農作物の残留農薬の数値が規定以上に高まっている可能性もあります。
またもう一つの問題点として、その最初の検査においても全量ではなく一部のみ検査されることが挙げられます。1000キロ輸入されるのであれば1000キロ全てを検査されるべきところをほんの一部しか検査しないことになっているのです。
経済的視点に立てば、輸入手続きを簡易化した方が盛んに貿易が行われて経済が活性化すると言えますが、本当に大切なことは「経済」ではなく「安全性」だと私は思います。
その安全性が蔑ろにされている現在の貿易制度については再考して改善すべきでしょう。
これはEU間との貿易に限ったことではなく、輸入全体の問題なのですが、今後日欧EPAによって輸入品が更に増えることからデメリットとしてお伝えしました。2018年末に発効される予定のTPP11でも同じことがいえます。
私たち消費者も何を選んでいくかという意識を今まで以上に強く持つべき時なのかもしれません。私はなるべく国産で、生産者の顔がわかり、生産過程が透明化されている商品を選んでいこうと考えています。地産地消ベースで経済が循環するのが一番環境負荷も低く、健全だと思うからです。
時に海外の商品を買うときもあるでしょうが基本的にはその考えを元にモノを買っていく所存です。
グローバルかつ経済自由主義的な世界だからこそ、守るべきものがあるように感じるこの頃です。
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