在韓米軍が朝鮮半島から撤退するかもしれないと巷では噂されていますが、撤退する可能性はほぼ100%で既定路線だと私は考えています。そう断言できる5つの理由を以下にまとめました。
目次
在韓米軍の撤退の論拠その1:トランプ大統領の意向
米朝首脳会談後の単独会見で、トランプ大統領が「在韓米軍はカネの無駄だから撤退させたい」と発言していることから明らかなようにトランプ大統領は在韓米軍撤退に前のめりです。
米国のシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)のハムレ所長(元国防副長官)も「トランプ米大統領が北朝鮮とのさらなる首脳会談の後、在韓米軍を撤収させるのではないか心配だ(2019年9月24日の講演および中央日報とのインタビューにて)」と述べていることからもそれが単なるトランプによる思い付きの言葉ではないことが伺えます。
実際トランプは「世界の警察をやめる」というような発言を公にしており、シリアから米軍を撤退させる表明をしていたりしています。
アメリカの財政状況はかなり深刻で、財政破綻(デフォルト)も噂されています。その破綻寸前のアメリカを建て直すべく、トランプ大統領としてはまずは軍事費を縮小させたい意向があるのです。それはまるで破産寸前の会社の事業再生を任された新CEOのように。
在韓米軍の駐留費は韓国も負担をしていますが、全額ではないのでアメリカ側もお金がかかっています。トランプ大統領はそれをどうにかしたいのです。
朝鮮日報によると、在韓米軍駐留費用の来年以降の負担額を巡る交渉で、米国が今年の5倍以上となる47億ドルを提示したそうです。いかにもトランプ大統領のやり方といえるでしょう。つまり自国の駐留費用の負担を一気に減らし相手側の負担を増やすことで韓国世論を「在韓米軍完全撤退」に動かそうとしていると考えられます。血税の負担が増えるのであれば撤退賛成派が増えるはずです。市民団体が強い韓国においては政府は世論を無視することはできません。そこまで考えての費用負担の増額の要求だと思われます。
在韓米軍撤退はお金だけの問題ではありません。
米国はイラン戦争以来、米兵の死者が多数出る地上軍の配備を渋っています。その厭戦ムードはオバマ政権時代からあり、オバマ氏もまた世論を受けて海外における軍備縮小を行う素振りを見せていました。つまり米軍を撤退させることはアメリカ国民の支持を集めれることになるのです。トランプ氏は次の大統領選のためにも在韓米軍撤退への動きは止めないでしょう。
また、韓国軍の作戦統制権は米軍側が持っていましたが、それを2020年に韓国軍側に移管することが決まっていることからも米軍が韓国から撤退する準備をしていると考えられます。。
論拠その2:文在寅大統領の朝鮮半島統一の野望
そのトランプ大統領の意向を後押ししているように見えるのが韓国の文在寅大統領です。朝鮮半島統一を掲げる「進歩派」である文大統領は金正恩総書記との南北対談を立て続けに行う異例の動きを見せるだけでなく、米朝首脳会議において仲介役を務めるなど、北朝鮮に急接近していることで知られています。
また「光復節」(8月15日)式典での演説で、「2032年にソウルと平壌で共同オリンピック開催」「2045年に平和統一」を訴えていることからも、「朝鮮半島統一」が文在寅大統領の悲願といっても過言ではないのです。
そのためにはまず統一の障壁となっている在韓米軍を撤退させる必要があります。その文大統領の本音を示すように韓国は弾道ミサイル迎撃システム、THAADの設置を渋っていたり、日米韓三国の軍事同盟の象徴ともいえる軍事情報を提供しあう協定、GSOMIAを破棄しています。
どれもこれも北朝鮮にとっては好都合なことです。文大統領は一貫して北朝鮮のご機嫌取りに躍起になっています。文大統領は悲願を果たすためにも韓国を在韓米軍撤退へと導いていくでしょう。アメリカとしてもそれは利害が一致するので、次期大統領が継続してトランプ氏のままであれば、この流れが変わることはないでしょう。
論拠その3:韓国における反米軍感情
韓国における反米軍感情も在韓米軍撤退の後押しをしています。今まで韓国政府は北朝鮮との軍事分界線付近を中心に広大な土地を米軍に貸与してきました。しかしその一方で、米軍基地の周辺住民への補償や支援はほとんど行ってこなかったのです。
こういったことが背景にある中で1999年のAP通信の報道によって朝鮮戦争中米軍が韓国人民間人を虐殺したノグンリ事件が公にされて反米軍感情が一気に高まりました。また、2002年には米軍装甲車による事故で女子中学生2名が死亡した事件発生によりロウソクデモなど反米運動が広まっていきました。
そのため、在韓米軍撤退を願う人は文大統領だけでなく市民の中にも多いのです。さらに世論が撤退賛成へと傾いていけば、韓国政府としても米軍を撤退させる大義名分ができるのです。
論拠その4:韓国と北朝鮮の軍事力の差
在韓米軍が完全に撤退するとなると北朝鮮が好機とみて韓国に攻め込んでくるのではないかと考える人もいるでしょうが、それは考えづらいことです。
北朝鮮空軍の戦闘機はほとんどが70年代以前に登場したかなりの旧式で、比較的新しいものは旧ソ連製のMiG29が何機かあるだけです。そのため韓国空軍は防空に力を入れる必要が薄く、そもそも米空軍への依存度はあまり高くありません。
在韓米軍の人数は陸軍1万7200人、空軍8100人など計2万5800人(2018年末米国防総省の発表)で、韓国軍の総人員は62万5千人です。2019年版の軍事力ランキングでも、韓国は世界第7位で、北朝鮮は第17位で戦力差は明らかです(英国際戦略研究所発行の『ミリタリー・バランス2019年版』による)。
北朝鮮の総兵力約119万人のうち陸軍が102万人、韓国の63万人のうち陸軍は約50万人で陸軍の数だけを見れば北朝鮮が上回っていますが、韓国側は米国の優秀な戦闘機を配備しているので北朝鮮の陸軍は韓国の航空戦力によって撃退が容易です。
無人航空機(ドローン)での戦いが可能な時代で、陸軍同士がぶつかり合うような戦争は今や時代遅れといっても過言ではありません。北朝鮮側もそれは百も承知で、自国の戦力と他国のそれの差をわかっているからこそ唯一の外交カードとなり得る核兵器や弾道ミサイルで他国を威嚇しているとも言えます。
在韓米軍を感情的に嫌っている韓国民が多いうえに、万が一北朝鮮が攻めてきたとしても米軍に頼らずとも北朝鮮に打ち負かされる可能性は非常に低いので、感情面だけではなく現実的な視点においても米軍撤退が妥当と考える韓国人が少なくないのです。
論拠その5:そもそも戦争する気などない北朝鮮の最近の動向
返り討ちに遭いかねない北朝鮮が自国を存亡の危機に晒してまで攻めてくるとは思えません。金正恩はそこまで頭が悪くないでしょう。
北朝鮮は今はそれどころではなく、経済の建て直しが迫られているのです。北朝鮮を裏で動かし、経済支援もしていた中国の江沢民一派が習近平の汚職撲滅キャンペーンによって次々と粛清されていくことで、北朝鮮は後ろ盾を失いました。江沢民一派の協力によって行えていたアフリカへの武器輸出や香港でのマネーロンダリングによる資金調達が困難になってきたのです。アメリカをはじめとする諸外国との国交を回復することで、自国でまわらなくなった経済の建て直しをしなければならない局面なのです。
その詳細は過去の記事に書いてあるので、ご興味ございましたらこちらもご覧ください。
金正恩は江沢民に代わって中国のトップに君臨した習近平に対して北朝鮮領土内の地下資源の共同開発を促していたり、ウォンサンカルマ(元山葛麻)に観光リゾートを全力を挙げて作ろうとしていることからも外資の協力を得ようとしている動きは明らかです。
金正恩はシンガポールでの米朝首脳会談の際に幹部を連れてマリーナベイ・サンズという巨大ホテルも行っていますが、そのホテルのオーナーはトランプ大統領の最大のスポンサーの一人であるシェルドン・アデルソンというシオニスト派のユダヤ人です。ウォンサンカルマという新しいリゾート地としてマリーナベイ・サンズのような巨大ホテルを誘致したいがためにそこを訪れたと考えられます。金正恩は米朝首脳会談の際にトランプに誘致の協力を要請した可能性もありますし、実際にシェルドン・アデルソン本人に会って話した可能性も考えられます。
こうした動きをみると、金正恩は今は中国やアメリカなどの外資を誘致することに躍起になっていると考えられます。それは韓国も例外ではありません。金大中大統領の初の訪朝の直前、ヒュンダイ財閥が5億ドルを北朝鮮に送金していたことからわかるように、韓国の財閥企業は北朝鮮への投資を狙っているでしょうし、北朝鮮側もそれを望んでいるはずです。
在韓米軍がいなくなることで韓国と北朝鮮の国交は回復するか、もしくは国家統一も考えられます。どうなるにせよ、在韓米軍が撤退して両国の関係が安定すれば韓国の財閥は北へ投資し、北の安い労働力を使って輸出競争力を強化しようとするでしょう。
なぜなら労働組合が執拗にストライキを繰り返す韓国と違って、独裁政権下の北の労働者は従順で、低賃金でもよく働きますから。つまり韓国の財閥は北の労働者の劣悪な労働条件を利用して利益を追求し、独裁者一族に献金をするということが考えられます。
金正恩としても北側に投資が集まることでより発展させることができますし、自らの懐に入るお金が増えるのであれば願ったり叶ったりです。
韓国財閥の投資が集まることを考えると、在韓米軍の撤退は韓国にとっても北朝鮮にとっても利害が一致します。
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