「働き方改革」の3つの問題点をわかりやすく解説

前回の記事では働き方改革関連法案の概要を解説しましたが、今回はその法案の問題点について解説していこうと思います。

 

 

問題点1:働き方改革関連法案の残業時間ルールでは過労死を防止できない

 

通常の残業時間は原則月45時間までとなっていますが、特別条項を設ければ年6回まで月100時間まで残業させることが可能になります。また「複数月平均80時間まで」という決まりも守らなければなりません。しかしこれだけで過労死を防止できるのでしょうか?

 

下の図は平成28年度と29年度の過労死によって脳・心臓疾患で亡くなったと認定された人の数です。

 

出典:厚生労働省「H29過労死等の労災補償状況」(※赤い枠線は当ブログで付け加えています)

 

赤の枠線を見ていただけるとわかりますが、月平均60〜80時間で過労死が28年度で9名、29年度で5名となっています。平均が月80時間を超えると更にその数が増えます。過労死というものは世界的に見ても異常な事態で本来0であるべきでしょう。

 

平均60〜80時間で2年連続で過労死が生じているわけですから、働き方改革関連法案の「複数月平均80時間まで」という決まりだけでは過労死をなくすことができないと私は思います。

 

また、そもそも残業100時間まで認めるという制度にも問題があるでしょう。過去に過労死認定の裁判でも

「月95時間分の時間外労働を義務付ける労使合意は、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえある」(ザ・ウインザー・ホテルズインターナショナル札幌高裁 H24.10.19判決)

「月83時間の残業は…公序良俗に違反すると言わざるを得ない」(穂波事件・岐阜地裁 H27.10.22判決)

 

という判決が出ています。100時間まで残業が法的に認められてしまうと、裁判官は法律を乗り越えて良心的な判決を出しづらくなります。つまり労災認定がされ難くなるのです。

 

先にも残業平均60〜80時間で過労死が出ていることにも触れましたが、「複数月平均80時間まで」というルールを明記すれば、その残業平均60〜80時間による死者は「過労」と認めなくてもいいという解釈もできてしまうのです。そうなると統計上は過労死が減るでしょう。

 

ある意味恐ろしい決まりです。

 

問題点2:過労死ドライバーを守れない

 

自動車運転業務は例外的に平成36年(2024年)3月までは特別条項の上限時間(単月100時間まで等)について法律上の制限は設定されません。同年4月以降は特別条項がある場合の残業時間については年960時間までと長く設定されていて、更に「単月100時間未満、複数月平均80時間まで」のルールについてはその後も当分の間適用予定がありません

 

しかし実は過労死が発生しているのはバスやトラックなどのドライバーが最多なのをご存知でしたか?

 

実際、2017年の脳・心臓疾患に関する労災事案は「請求825件(死亡261) 支給決定260(死107) 支給決定」で、そのうち業種では道路貨物輸送業89(死33)です。自動車運転従事者89(死29)道路貨物運送業従事者の全体に対する過労死率約12.6%です。全労働者の3.4%にもかかわらず。

 

ドライバーには「単月100時間未満、複数月平均80時間まで」というルールは適用せず、年960時間まで残業を認める。一番犠牲者ともいえるドライバーを守らないどころか、その数をむしろ増やしてしまうのではないかと懸念される新ルールになっています。

 

 

問題点3:働かせ放題の高度プロフェッショナル制度

 

専門職で年収が1075万円以上の人は本人の同意等を条件として労働時間規制や割増賃金支払の対象外とする制度が導入されます。具体的には以下の条件を満たす必要があります。

 

1. 職務の内容が明確に決まっていること

2. 労使委員会の5分の4以上の多数決議

3. 行政官庁への届出

4. 本人の同意(同意しなかった場合に、解雇等の不利な扱いをすることは禁止)

5.  企業側がその従業員の「在社時間」と「社外で労働した時間」を客観的に把握する措置をとっていること

6. 1年間で最低でも104日以上、4週間で4日以上の休日を付与すること

7.  休日や労働時間等に関する下記のいずれかの措置を講じること

a) 勤務間インターバル制度、及び深夜労働の回数の上限
b) 「健康管理時間」(=「在社時間」+「社外で労働した時間」)の上限
c) 1年に1回以上、2週間連続の休暇を与えること(有給以外に2週間)
d) 一定範囲の従業員に対する健康診断の実施

8. 有給の付与、健康診断の実施等

 

この条件に何の問題があるのかというと、7の休日や労働時間に関する措置で(c)を講じた場合、極端なことをいえば、1 日24 時間×261 日労働 でも合法となってしまうのです。しかも残業代は0ですからどれだけ働いても定額年収1075万円ということになってしまいます。

 

なぜこのように不条理なルールが設けられたのかというと、財界の要望があったからだと言われています。実際、安倍内閣は財界の要求を忠実に実行しようとしていますから、今回もそうである可能性は否めません。

 

出典:湯沢平和の輪『「働かせ放題」法案は10数年来の財界の要求』

 

むしろそうでなければ、なぜこのような不条理なルールが作られたのかが不明でしかありません。

 

年収1075万円以上となるとかなり高給社員で少数派となりますが、この高度プロフェッショナル制度の条件の年収を後々に下げてくるという可能性もあります。いきなり大きな変化を作ると反発も大きいので徐々に変更していくというのは政府の常套手段ともいえます。そうならないように政府の法改正の動きには常に注意しておいたほうがよいでしょう。

 

こういった問題点を孕んだ「働き方改革関連法案」では過労死を減らせることができるのか疑問が残るところです。また残業代0の専門職が増えてしまうことが懸念されます。本当の意味での「働き方改革」の実現はいつになるのでしょうか…。

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