東京電力ホールディングス(以下、東電)が国内最大級となる洋上風力発電の建設を開発予定していることが明らかにされました。その発電量は原子力発電1基分(100万キロワット級)を超える見込みとのことです。
東電が洋上風力発電事業に乗り出した背景を探ってみましょう。
福島原発事故の廃炉・除染費用を賄うため
忘れもしない2011年3月11日の大地震と大津波。そして原発事故。
その廃炉と除染作業は今も尚続いており、廃炉作業は最長40年、費用は約8兆円と見込まれています(ただし、安定的に冷却停止し、スムーズに廃炉作業に入った小規模の原発でさえ、イギリスは90年が必要といっているため、廃炉期間と費用は更にかかる可能性が高いです)。
除染に必要な費用と期間に関しては未知数で、福島周辺を覆う放射性物質が安全レベルにまで達するのに数万年かかるともいわれています。
その膨大な時間とお金が必要とされる廃炉と除染作業に充てる新しい費用源として、再生可能エネルギーとなる洋上風力発電が注目されるようになったのです。
世界の脱原発と新再生可能エネルギーの潮流
世界の主要国は今脱原発に向かっています。
日本の原発事故を受け、ドイツのメルケル首相は2022年までに原発を全廃すると決定し、スイスは2034年までに脱原発を実現することを決定、イタリアは原発のない国でフランスの協力で新設を検討していましたが、これも同じく日本の原発事故を受けて従来通り原発に依存しない国にすることが決められました。世界一の原発保有国アメリカでも原発が続々と運転終了、廃炉が進められています。
また、トルコ、イギリスでは原発新設計画があり、日本企業(トルコでは三菱重工業、イギリスでは日立製作所)が建設の受注していましたが、両国とも予算などの問題で建設計画が頓挫しています。
日立製作所の会長兼経団連の会長の中西宏明氏はこの事態を受けて「難しい状況。もう限界だと思う」と発言し、更には以下のことも述べました。
「お客さまが利益を上げられない商売でベンダー(提供企業)が利益を上げるのは難しい。どうするか真剣に一般公開の討論をするべきだと思う。全員が反対するものをエネルギー業者やベンダーが無理やりつくるということは、民主国家ではない」
原発メーカーと経団連のトップを兼ねる人物がこのような「脱原発」の発言をしたことで政治・経済界では衝撃が走りました。
もともと安倍内閣の「成長戦略」の一環であった原発輸出は官民一体で進められてきましたが、これまでに中止になったベトナムなども含め総崩れの模様です。
世界の潮流をみれば、莫大な費用がかかる上に事故リスクが非常に高い原発はもはや時代遅れのエネルギーだといえるでしょう。
その一方で、世界では環境と人に優しい持続可能エネルギーの開発が進められています。その一つが洋上風力発電です。
世界的には、欧米諸国の設備普及が進んでおり、その中でも特に環境先進国として知られるデンマークは2017年の風力発電による発電量は国全体の消費電力の43.6%を賄うほどです。私もデンマークの首都コペンハーゲンに行ったことがありますが、都市近海にたくさんの洋上風力発電が並べられている風景が印象的でした。
以下の図が洋上風力発電の設備容量の世界ランキングです。トップのイギリス以下、ドイツ、中国、デンマーク、オランダ、ベルギーと続いており、日本は10位です。
洋上風力発電に関する新法案
日本では長期にわたる海域の占用を実現するための統一ルールがなかったため外資の参入が難しいこともあって、開発に遅れをとっていました。そこで2017年11月に洋上風力発電に関する新法案が作られたのです。
この新法案によって日本の海域での長期占用が可能となりました。
東電はその新法案に合わせて洋上風力発電の建設計画を立てたと思われます。
その計画は実績が豊富な欧州の洋上風力メーカーと提携し、1兆円規模の事業費を投じ、千葉県銚子沖合に1基5000キロワット級の風車を約200基設置し、その発電量は約30万世帯の一般家庭の年間電力消費を賄えるほどとのこと。
洋上風力発電のタイプは着床式と浮体式がありますがその計画では着床式を採用するようです。
原発利権が巣食っていた東電にも新しい風が吹き始めているようです。
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