恐怖の契約米韓FTAで分かるTPP11・日米FTAの悪影響

元農林水産大臣の山田正彦氏によると、米国通商代表部(USTR)ウェンディ・カトラー代表補に「TPP協定で米国は日本に何を求めるのか」と聞いたところ「米韓FTAの内容を見てほしい。日本にはそれ以上のものを求める」とはっきりと答えたといいます。
 
 
アメリカは締結前にTPPから離脱しましたが、いつ戻ってきてもおかしくはありませんし、日本においては日米FTA(※)で全面的な市場開放が起こり、米韓FTAで起きたような出来事以上に様々な変化がもたらされることが考えられます。では一体、毒素条項が盛り込まれているとまで言われる米韓FTAではどのような変化が起きたのでしょうか?
 
 
(※日本政府側は限定的な市場開放の物品貿易協定(TAG)であり、FTAではないと強調していますが、アメリカ側はFTAと認識しており、実質全面的な市場開放FTAであるようなのでここでは「日米FTA」と書きます)
 
 

・ISD条項

 

ISD(Investor State Dispute Settlement)条項については過去の記事で何度も触れていますが、これは経済協定を結んでいる国家間において、投資家や企業が政府や自治体に損害賠償を求めることができるという制度です。米韓FTAでもこの条項が盛り込まれていて、米国企業から約5500億円の損害賠償を求められるという事件が起こっています。

 

その詳細は後述するとして、まずアメリカ・カナダ・メキシコの経済協定NAFTAにおけるISD条項の事例を挙げましょう。

 

以下はアメリカとカナダ間で起きた具体的な事例です。

 

米石油会社Ethylがカナダに対して有害物質MMT含有の石油を輸出しようとしたところ、カナダ政府が輸入禁止措置を取りました。しかし、Ethylはその物質の有害性がまだ立証されていないとしてカナダ政府をICSID(投資紛争解決センター)に訴えました。その結果、カナダ政府が敗訴し、有害物質を規制する法律の撤廃と1000万ドルの賠償の支払いを命じられました。

 

他にもう一つ前例を挙げましょう。次はアメリカとメキシコ間の争いの話です。

 

米企業はメキシコ内で産業廃棄場の建設をしようとしましたが、環境保護を理由に地元の自治体が建設の不許可を出しました。すると、この不許可がNAFTAの貿易ルールに違反するとして米企業がISD条項を根拠に訴訟を起こしました。その結果、ICSID(投資紛争解決センター)は2000年、メキシコの自治体側の主張を退け、メキシコ政府に1600万ドルの賠償を命じました。

 

ISD条項を通したこのような理不尽な事例が何百件もあるのです。

 

日本政府もISD条項を含んだ経済協定(FTA)を様々な国と結んでいて今まで訴えられたことはないから大丈夫だと言っていますが、韓国政府も米韓FTA締結前に日本政府と同じように説明して、締結の2ヶ月後には政府の許可が2か月遅れたとして米国の投資ファンドのローンスター社から約5500億円の損害賠償を求められています。(詳しくはこちら

 

日本も現在アメリカと自由貿易協定を結ぼうと話を進めている段階で、これにもISD条項が盛り込まれると以上の事例のようにアメリカ企業に訴えられる可能性が高まります。

 

2015年来日したノーベル経済学者のジョセフ・E・スティグリッツ教授曰く
「ISD条項で日本国の主権が損なわれる」
 

これは大袈裟な表現ではなく、まさにその通りなのです。

 

・ラチェット条項

 
ラチェットとは一方にしか動かない歯車を指します。そこから転じてラチェット条項とは、条約の締約国が一旦市場開放した後に、何らかの事情によって市場開放に問題を感じたとしても、その市場に対して規制をかけることが許されない規定を指します。
 
 
例えば、アメリカとFTAを結んだ韓国は、15年かけて牛肉の関税を撤廃して、完全自由化することが決まっていますが、もしその後にアメリカでBSEが発生するなど、何かしらの問題が起こったとしても、一度自由化したので輸入規制をかけることはできません。
 
 
また、韓国の小学校給食では「地産地消」を実施すべしという条例がありましたが、米韓FTAの要求で変更させられました。ラチェット規定に従えばこれを元に戻すことができません。「地産地消」はグローバリズムとは対極にあるような在り方で、考え方次第では輸入規制と捉えることもできるからです。
 
 
韓国の小学校でも、 日本と同様に給食があります。多くの自治体は「 子どもの給食には地元の食材を優先させて使うこと」 という条例を定め て い ます。「地産地消」という考え方 ですね。ところが、 これにもアメリカから横槍が入りました。「そんな条例があったら、学校給食にアメリカの食材が使えないじゃないか」というわけです。このため、韓国政府は各自治体に地産地消の条例をやめるように指示しました。結局、すったもんだした挙句、9割の自治体が「 地産地消」を条例からはずしました。おそらく、日本でもこうしたことが起こるにちがいありませ ん。
出典:苫米地英人 著「TPPで日本支配をたくらむ者たちの正体」株式会社サイゾー. Kindle 版
 
韓国政府はアメリカの何を恐れたのかというと、ISD条項による損害賠償請求です。 韓国政府はアメリカに拠点を置く多国籍企業に訴えられることを避けたと考えられます。
 
 
 韓国の各自治体が、条例に基づいて従来の「地産地消」の学校給食を続けていけば、米食品会社は思い通りに学校給食市場を獲得できない。その場合、ISD条項を使って韓国政府に損害賠償を求める可能性が出てくる。これを懸念した韓国政府は、先手を打つ格好で、各自治体に給食の「地産地消」優先を取りやめるように指示したといい、山田氏は次のように言葉を重ねた。
 
 「米国は当初、家畜が食べるトウモロコシや大豆はGMOに切り換えるが、人間が食べる小麦には使わない、としていた。だが、2012年に渡米した際、米小麦協会の会長は私に対し、『今後は小麦にも適用していく』と明言した。韓国では今、GMO食品による学校給食が始まろうとしている」
 
 
日本でも日米FTAが決まれば「地産地消」に対して規制がかけられ、その代わりとして遺伝子組み換え食品で給食が染められてしまうことになるかもしれません。
 
 
毒素条項ともいわれ恐れられているラチェット条項は他にも、水道事業を民営化した後は再公営化することができないようにもできる効力があるといわれています。
 
 
水道事業の運営権は日本でも民営に委託できるようになっておりますが、一旦そうしてしまった後に水道料金の高騰などの問題で再公営化しようとしてもラチェット条項によって元に戻せなくなる可能性があるのです。
 
 
 
 

・未来最恵国待遇

 
将来、韓国が他の国と貿易協定を結んだ時、その条件が米韓FTAの条件よりいいものだった場合、その条件を自動的にアメリカに与えることになります。
 
 
つまり日本とアメリカがFTAを結んだ場合、TPPや他の国とのFTAの条件を同じ水準にする必要があります。そうなると例えば、アメリカ産牛肉の関税を通常の38.5%から、EUと結んだ日欧EPAの基準(2033年までに9%に下げる)に合わせざるを得なくなり、前述したようにラチェット条項によって、アメリカでBSEが発生したとしても関税を上げて規制をかけることができなくなります。
 
 
 

・非違反提訴

 
特に条約違反をしていなくてもアメリカ企業が想定した利益が得られなかった場合、韓国企業を訴えることができます。ここまでくると滅茶苦茶な条約に思えますがこれが現実に存在しているのです。
 
 
 
他にもアメリカの要求によって国内の制度が様々な変えられており、例えば韓国版「エコカー減税」に対し、米韓FTAは「貿易の技術的障害に当たる可能性がある」として見直しを要求、「エコカー減税」実施は延期になりました。
 
 
 
 
以上に挙げたいくつかの事例は米韓FTAによってもたらされた韓国における悪影響の一部に過ぎません。
 
 
ちなみに2018年9月に米韓FTAは見直しがなされ、ISDの乱訴の制限や、政府の正当な政策権限の保護が協定文に新しく追加されました。ISD条項がいかに悪影響をもたらすかを思い知ったが故の変更なのでしょう。
 
 
日本においてもTPP11だけではなく、日米FTAによって全面的な市場開放に伴い、ISD条項による訴訟リスクが高まることが予想されています。
 
 
米韓FTAで起きたようなことが日本で起こる可能性も十分に考えられます。
 
 
貿易自由化という聞こえの良い言葉の裏には様々なリスクが孕んでいるのです。
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