中国の通信機器メーカー「ファーウェイ(Huawei)」排除に乗り出したアメリカ政府ですが、そもそもなぜアメリカはファーウェイの使用を禁止しようとしているのかという理由と貿易戦争の裏で行われるネットワーク覇権争いにおいてアメリカが中国に勝てないワケを説明していこうと思います。
ファーウェイの問題点
そもそもファーウェイという企業の何が問題視されているのかという本質的な部分を見ていきましょう。
ファーウェイはスマートフォン市場でサムスンに次ぐ世界第二位にまで上り詰めた企業として知られていますが、他にも世界中でネットワーク構築も手がけています。それが第5世代移動通信システム「5G」であり、現在世界で主流の4Gより100倍ものスピードで通信が行えると言われています。その高速通信システムの広がりによって、IoT(モノのインターネット化)がより加速し、世界経済を大きく変革させるとまで言われています。
問題視されているのは「5G」インフラを中国企業主導で作られることです。ファーウェイは5G技術において世界トップであり、かつて世界の通信システムを構築したノキア(フィンランド)やエリクソン(スウェーデン)を技術レベルで大きく引き離しています。
その証拠に5G標準化への貢献度を示す「寄書の提案数」においてHuaweiがトップに君臨しています。
仮にこのままファーウェイ主導で5Gインフラが世界各地で整えられると、中国政府が通信網を支配し、スパイ活動や知的財産権の侵害を行えるようになると警告をする人も少なくありません。最もそれを顕著に警鐘を鳴らすのは米トランプ大統領で、米中の貿易戦争の本質は5Gの覇権争いとも言われているのです。
ファーウェイは中国政府に近い企業と言われ、実際創業者の任正非(レン・チョンフェイ)は元人民解放軍の工兵隊員で、ファーウェイ創業当初から人民解放軍は主要取引先となっています。
中国政府から具体的にどのような支援があったのかは明らかにされていませんが、創業者の任自身中国の国内企業の優遇政策がなければ「ファーウェイは潰れていた」と語っています。
ファーウェイ自身は中国からどのような要請があっても「中国政府に情報提供しない」と断っていますが、中国共産党の支配力を見る限り、その言葉を鵜呑みにすることはできません。
アメリカのCIA、FBI、NSAなどの諜報機関はファーウェイ機器の広がりの危険性を訴えかけており、5Gネットワーク上でのスパイ活動やアクセス拒否を恐れてアメリカ政府もファーウェイ製品使用禁止に乗り出しました。
その流れにおいてアメリカの司法省が創業者の長女かつ後継者とも言われた孟晩舟(モン・ワンチョン)の逮捕を命じました。対イラン独自制裁に違反した容疑にかけられていますが、本当のところは後継を潰したかったがためだけなのかもしれません。
ファーウェイ問題は世界中が注目することであり、米中貿易戦争の渦中にあると言っても過言ではありません。
中国の5G技術に追いついていないアメリカ
アメリカは日本やドイツなどの同盟国を巻き込んでファーウェイ包囲網を築こうとしていますが、時すでに遅しというべきか、そのアメリカの試みが成功する見込みは薄い模様です。
なぜならファーウェイは既に世界中で無線通信インフラを構築してきた実績があり、5Gにおいてもファーウェイの技術が世界基準になろうとしているからです。実際アメリカからの要請(圧力)があってもイギリスやドイツをはじめとするヨーロッパ諸国はファーウェイの使用禁止にまで踏み切っていません。
ドイツ連邦ネットワーク庁プレジデントのJochen Homannは
「連邦ネットワーク庁は、ファーウェイが違法行為を行っているとする明確な証拠を得ていない」
「ファーウェイはこの分野で多くの特許を保有している。彼らを排除したなら、我が国の5Gネットワーク整備が遅延することになる」
と述べ、ファーウェイの5G技術を受け入れようとしています。
アメリカ政府はファーウェイ製品の採用をしたら情報活動の成果を共有しないと脅しにかけていますが、その脅迫も効果がなかったようです。(ちなみにアメリカに従順な日本はファーウェイ使用禁止要請に応えようとしています)
トランプ政権は各国にファーウェイの危険性をうまく説明できておらず、ファーウェイ製品が中国の情報活動に一役買っているという明確な証拠を示せていません。そして技術レベルでファーウェイに対抗できる企業はアメリカに存在しないために代替案を示すこともできていません。
その一方でファーウェイは世界中に広がっており、ヨーロッパだけでなくアフリカや南米にまで広がりを見せています。例えばアフリカ大陸の4Gネットワークの7割はファーウェイが構築しており、その流れで5Gネットワークの構築もまたファーウェイに任されようとしています。中国企業によるアフリカへの投資は数兆円と言われ、習近平総書記が掲げる世界的巨大経済圏「一帯一路」の構築にもファーウェイは一役買っています。
南米だけでも180億ドル(約1兆9800億円)の中国の投資が集まっており(American Enterprise Instituteのデータ)、中国の投資と技術なしには国家の発展が望めないという国も少なくありません。
このようにしてファーウェイと中国経済は先進国だけでなく経済発展途上国にも浸透していますが、それらの侵入が国家安全保障上の脅威だと吹聴しファーウェイ機器使用禁止を要請するアメリカ政府の声は発展途上国の耳にも届いていない模様です。
ファーウェイの5G技術はほとんど全て自前で調達していると言われているため経済制裁を受けたとしてもその勢いを留めさせることは難しいでしょう。
世界中で広がっているファーウェイの通信技術、そしてそれに対抗する術がなく禁止措置を取るしかないアメリカ。どちらが優勢なのかは火を見るよりも明らかでしょう。
アメリカが覇権を握っていた時代はもう終わり、今後は中国が覇権を握るのかもしれません。
中国の勢いはこのまま加速していくのか、それとも他の国がそれに歯止めをかけるのか、世界情勢から目を離せません。