新型コロナウイルスで大混乱状態の中国では、中国人民解放軍によるクーデター未遂事件が起こったかもしれないという話があります。
3月5日、中国人民解放軍の東部戦区に所属している戦闘機が中部戦区のミサイルに撃墜されたという情報が流され、実際にその映像がyoutubeにアップされました。もちろん中国メディアも日本メディアもこのニュースを報じていません。
日本に帰化して「月刊中国」を発行しているジャーナリストの鳴霞氏によれば、「東部戦区の人民解放軍がクーデターを起こそうと戦闘機で北京を攻撃し、中国政府を大混乱に陥れようとしたが、それを察知した中部戦区のミサイルに撃ち落された」といいます。
これが本当にクーデターだったのかどうかは定かではありませんが、北京から直線距離で100kmにも満たない位置にある天津市で戦闘機が墜落したということは事実です。
中国共産党が内部で権力闘争を繰り広げている一方で、共産党を守る側の人民解放軍も一枚岩ではなく、戦区ごとに相手を打ち倒す機会を虎視眈々と狙っています。
人民解放軍は5つの戦区で分かれていて、中国共産党が仮に崩壊したとしたら、中国はかつての軍閥割拠の時代のようにその5つの戦区に分裂するのではないかと様々な識者に予測されています。
では、今回はその分裂の可能性について書いていきます。
5つに分かれる人民解放軍
そもそも人民解放軍とは何かという話からしましょう。
人民解放軍は中国の軍隊と思われがちですが、厳密には中国共産党の軍隊であり、国家の軍隊でも国民の軍隊でもありません。その証拠に、軍の記念行事等で軍人が拳を旗に向けて宣誓する場面がありますが、その時使用されるのは中国の国旗ではなく、鎌とハンマーで有名な共産党の旗です。つまり、軍人は国家ではなく、共産党に宣誓するということです。これをあえて日本で例えるなら、自民党が自衛隊を所有していることになり、自衛隊は自民党以外は守らないということになります。
その人民解放軍も一枚岩でなく、様々な軍閥に分かれています。そもそも人民解放軍は2016年まで7つの軍区に分けられていましたが、習近平は2016年に中央集権化を図るべく、5つの戦区に再編しました。名目上は効率化を高めるための再編とされていますが、実際は瀋陽軍区の解体が目的だといわれています。瀋陽軍区は「最強の軍区」と言われており、実態は江沢民の派閥なので習近平にとっては自らの寝首を掻かれかねない、最も厄介な存在でした。
そこで習近平は瀋陽軍区を解体するために再編を行い、瀋陽軍区と北京軍区を合併させ、中部戦区として中央で管理することを目論みましたが、そうなりませんでした。つまり結果的に失敗したといえるのです。むしろ瀋陽軍区は「北部戦区」として元々管轄していた東北三省に加え、内モンゴル自治区と山東省が統合された形になり、逆に増強されてしまいました。なぜ習近平が再編に失敗したのかというと、中国共産党の最高意思決定機関である「中央政治局常務委員会」、いわゆるチャイナセブンの中に反習近平的な江沢民派閥が3人もいたからだと思われます。当時の序列3位の張徳江、5位の劉雲山、7位の張高麗はかつての共産党のトップで引退後も院政を敷いていた江沢民の派閥に属していたのです。2012年に共産党の最高指導者となった習近平は共産党における江沢民の影響力を削ぐために腐敗撲滅キャンペーンを行い、江沢民派閥を中心に就任してわずか2年で25万人を超える中国共産党員を腐敗で検挙しました。しかし、江沢民派閥の影響力を完全に削ぎ落すことはできず、選挙で3人の江沢民派閥がチャイナセブンに選ばれていました。その3人が瀋陽軍区の解体を防いで、逆に増強させることに成功したのではないかと考えられます。序列5位の劉雲山が内モンゴルを管轄していましたし、序列7位の張高麗は山東省を管轄していたことからも、彼らが結託して北部戦区としてそれらの管轄地域を統合させるように働きかけたことは明らかです。
北部戦区の中でも特に旧瀋陽軍区は江沢民派閥の牙城で、実際に同軍区で多大な影響力を持つ人物によるクーデター計画がありました。その人物とは中央政治局委員で長年遼寧省の大連市で様々な役職を務めた薄熙来です。同氏は大規模な盗聴網を所有し、国家主席も含めた政府高官の電話を盗聴していたことや不正蓄財をしていたこと、その不正蓄財のマネーロンダリングを手伝っていたイギリスの実業家を暗殺したなどが側近によって暴露され、結局逮捕されてしまいました。その逮捕劇ののちに同氏を共産党のトップに据えようというクーデター計画があったことが明らかになったのです。
そのクーデター計画に参画していた中心的な人物として警察・司法権を握る周永康と中央軍事委員会の副主席の徐才厚がいて、両者も名目上は汚職など規律違反として逮捕されていますが、本当の理由は習近平体制に謀反しようとしていたことだと見られています。周永康は薄熙来の能力と実力を高く評価しており、後継者にしようと考えていました。簿を中央政法委員会の書記に就任させたら、捜査機関を動員して習近平の汚職を明らかにし、追い落としを図ろうとしていたのです。それに徐才厚も支援していたという構図です。
結局両者は返り討ちにあうことで逮捕されてしまうのですが、周永康に関しては最高意思決定機関の「中央政治局常務委員会」の委員であり、序列は当時9位でしたが、政治局常務委員会の経験者が逮捕されたというのは中華人民共和国建国以降、初めての出来事でした。政治局常務委員会の経験者はどんな汚職でも逮捕されないという不文律があり、常務委員はいわば「神」のような存在であり、聖域化されていたと思われたので、その逮捕劇は驚きの目で世界から注目されました。習近平は誰も触れなかったその聖域に大胆不敵にメスを入れたわけですが、それほど事態が深刻だったことが分かります。
薄熙来も周永康も徐才厚も江沢民派閥であることで知られ、薄熙来は瀋陽軍区で多大な影響力を持つ人物でした。中国での権力争いの実態を理解するためには、この瀋陽軍区と江沢民の関係を知る必要があります。そこでまずは瀋陽軍区の歴史から遡ってみましょう。
瀋陽軍区
瀋陽軍区の前身は、朝鮮戦争勃発を受けて「義勇軍」として朝鮮半島に送り込まれた人民解放軍所属の第四野戦軍です。これは朝鮮族らが中心となって編成された「外人部隊」で、中国の人民解放軍所属で最強でした。現代でも同じく、瀋陽軍区の陸軍の多くは朝鮮民族だといわれています。
なぜ瀋陽軍区で朝鮮民族が多いのかというと、瀋陽軍区は東北三省の遼寧省・吉林省・黒竜江省から成りますが、これらの地域はいわゆる旧満州で、昔から多数の朝鮮民族が住んでいました。李氏朝鮮時代(1392~1910年)から、多数の朝鮮人が満州に移住しているのですが、1930年代に日本の満州支配と朝鮮人計画移民により朝鮮からの移住が更に急増しました。1945年に日本の降伏で朝鮮が日本の併合関係から解かれ、約70万人の朝鮮人が帰国した一方で、かなりの朝鮮人は中国に残りました。
満州は深い森林でおおわれ、大日本帝國・朝鮮総督府の支配も隅々までは行き届かず、無法者の朝鮮人や支那人であった満州馬賊が活動していました。それら満州馬賊は日本敗戦後に中国人民解放軍に組み込まれ、朝鮮戦争の際に「義勇軍」として動員されたのです。
瀋陽軍区は朝鮮戦争の再開も想定される上に、ソ連とも国境を接するので、軍事費が優遇され、最新兵器が集積されました。その結果、瀋陽軍区は最強の軍区に発展していったのです。しかし問題は瀋陽軍区は朝鮮民族が多いことであり、瀋陽軍区の管轄域には延辺朝鮮族自治州も含まれ、軍区全体では、いまも180万人もの朝鮮族が居住しているといわれています。「瀋陽軍区」と北朝鮮の朝鮮人民軍は、国境をまたぎますが、意識上は「同じ人々」で、民族的な帰属意識は中国にはなく、朝鮮半島にあり、北京政府に対する反乱分子もたくさんいるわけです。その証拠に瀋陽軍区の朝鮮民族は武器・エネルギー・食糧・生活必需品を密輸することで北朝鮮を支援してきました。
それゆえ、金正日総書記も2009年以降だけでも、11回も瀋陽軍区を訪れています。この瀋陽軍区が長い間北朝鮮を事実上コントロールしてきたのですが、北京政府にとってはクーデターを起こす可能性が高い軍区として警戒されていました。そのため習近平国家主席は2016年に軍区を再編し、瀋陽軍区の力を削ごうとしたのだと考えられます。しかし、前述したようにその習近平の狙いは江沢民派閥に阻まれ、結果的に瀋陽軍区は北部戦区として増強してしまいました。それもそのはず、その江沢民派閥こそが瀋陽軍区の利権者で、北朝鮮とも結託をしていました。江沢民が党総書記に就任した翌年の1990年3月、初めての外遊先として選んだのは北朝鮮でした。そして江沢民は金正日と会見し、「血の友誼(ゆうぎ)」といわれる独特な関係を深めていきました。その際、通訳を務めたのが、江沢民派閥で序列3位だった張徳江です。張徳江は延辺朝鮮自治州で長年役職を務めており、北朝鮮の金正日総合大学に2年間留学もしているので、流暢な朝鮮語を話します。江沢民にその経験を買われて、中国、北朝鮮とのパイプ作りを進めるために重用されたことで、張徳江は北朝鮮利権の本丸になりました。張徳江を中心とした「瀋陽軍区」の高官の一族らは、食糧や武器などの支援の見返りとして、北朝鮮に大量に埋蔵されるレアメタルの採掘権を保有しています。別名「金一族の代理人」で、北朝鮮を裏で動かす人物とされていました。
しかし、張徳江は2017年10月の中国共産党大会で全国人民代表大会常務委員会委員長の引退を勧告され、事実上失脚する憂き目に遭うことになります。そしてその翌月、事実上張徳江の管理下に置かれていた丹東銀行が北朝鮮の資金洗浄を協力したり、核・ミサイル開発支援に関与したという理由で米金融システムから完全に締め出しを喰らいました。これはトランプ政権と習近平体制が協力したものだと思われます。どちらも北朝鮮と江沢民派閥の癒着関係を解体するために利害が一致したものだと思われます。事実、丹東銀行による資金提供は、北朝鮮の命綱とも言えるものでした。
この頃に北朝鮮の金正恩は後ろ盾を失うことになり、急に態度を変えて、2018年5月にシンガポールで米朝首脳会談を実現させるなど、アメリカとの融和ムードを演出するようになります。
つまり、金正恩としては旧瀋陽軍区からの資金が断たれたから、開国して経済を盛り上げようという方針に切り替えたのです。
金正恩はいわば、習近平体制と江沢民派閥の権力闘争に巻き込まれた形となり、この権力闘争にトランプ政権が習近平側に回ったとみることができます。
その結果として、北朝鮮の開国ムードが高まり、韓国との統一も現実味を帯び始めました。
こう見ると、一連の権力闘争においては習近平が勝利したものと見えますが、江沢民派閥が完全に排除されたわけではありません。
確かに最高指導部における江沢民の影響力は随分と落ちましたが、江沢民派の総本山である上海市のトップで江沢民の腹心ともいわれた韓正は序列7位にいます。また、張徳江や薄熙来などが失脚したとはいえ、その利権構造に群がっていたものは他にも多数いると考えられ、北部戦区で新たに反旗を翻す勢力が現れてもおかしくはありません。習近平は超監視社会を構築しつつありますが、それは自身の権力を脅かす存在に対する恐れの裏返しでもあります。事実、習近平は何度も暗殺されかけています。習近平の暗殺未遂事件は歴代トップであり、総書記になる前に2回、一期目の任期の5年間に10回、二期目に入ってからは2回あったと言われています。
それらの暗殺未遂事件がどこまで本当なのかは分かりませんが、習近平が暗殺を恐れていることは明らかです。公の場に出るときは防弾チョッキを必ず着用しているだけでなく、自身が乗る公用車を高性能防弾、防爆仕様にし、警護用特別警察官(SP)をどんどん増員し、外遊の際には予備の専用機と私服特別警察を増員配置するようにしていることからも、暗殺対策にかなり力を入れていることが分かります。
反習近平体制の動きは暗殺未遂事件だけではありません。2015年に起きた中国株の大暴落も天津大爆発も江沢民派閥による習近平への攻撃だといわれており、爆発の報告を受けた習主席は、江沢民とその息子江綿恒の身柄拘束に踏み切ったと報じられています。過去の国家主席だった江沢民を完全に逮捕してしまうと、過去の中国共産党史を否定してしまうことになるので、習近平はそこまではしていませんが、事実上幽閉状態に近いものだと思われます。
しかしその後も江沢民派閥によってあの手この手を使って攻撃されているようであり、香港デモの黒幕は江沢民派閥とそれに組する投資家ジョージ・ソロスやCIAの関連組織などによる可能性が高いことがわかっています。
このように反乱の芽は完全に潰えていないようであり、今回の東部戦区の戦闘機の墜落事故もクーデター未遂だとしてもおかしくはないことがわかるでしょう。
一番危険とされる北部戦区も幹部が相次いで失脚したとはいえ、反乱分子はまだいると思われます。北部戦区は戦力だけ見ても最強の軍区で、朝鮮半島が南北統一して統一朝鮮ができてしまうと、ナショナリズムの高揚によって同戦区の朝鮮民族が反旗を翻す可能性があるので、中央政府にとっては危険であることに変わりはありません。北部戦区に足りないものがあるとしたら、核兵器くらいです。核管理は西部戦区(旧・成都軍区)がしてきました。北部戦区は核武装して、北京に対し権限強化を謀りたいのですが、北京が警戒してそれを許しません。だからこそ旧・瀋陽軍区は北朝鮮と結託し、核実験の原料や核製造技術を北朝鮮に流すことで、北朝鮮に核武装を託しましたと考えることができます。
実際、2016年に北部戦区の管轄である遼寧省を拠点にする女性実業家が逮捕されたのですが、通常兵器の関連物資だけでなく、核開発の関連物資を北朝鮮に密かに売りつけていたことが明らかになりました。その女性実業家が中国の厳しい監視網を長い間逃れられたのは、旧・瀋陽軍区の後ろ盾があったればこそだと考えることができます。
毛沢東がかつて「革命は銃口から生まれる」という言葉を残したように、中国共産党史以来ずっと血で血を洗う苛烈な権力闘争が繰り広げられてきました。
そもそも中国大陸の歴代王朝は革命で転覆されており、元や清などの異民族に支配されていた時代も長く、古来から王朝交代を正当化する易姓革命という思想があるほど、革命続きの歴史でした。そういった革命続きの歴史をベースにして現在の出来事を解釈していく傾向にあるので、中国の歴代指導部も常に革命を恐れています。習近平は特にその恐れが強い模様で、江沢民派閥を大量に失脚させた反動として革命が起こる可能性を常に警戒しており、だからこそ監視社会のレベルを究極にまで高めているのだと考えられます。
今回の東部戦区の戦闘機墜落は新型ウイルスの混乱に乗じたクーデター未遂である可能性も否めませんし、今後北部戦区が何らかの動きを見せる可能性もあります。前回の記事でも紹介しましたが、韓国のデフォルト危機が高まっており、そうするとなると、混乱に乗じて韓国の主体思想派が韓国を北朝鮮に差し出し、北朝鮮主導の統一朝鮮が樹立される可能性があり、北部戦区と結託することで中国にも牙をむく可能性もあります。それをアメリカが支援する可能性も否めないので、中国は内部から分裂するシナリオが考えられるのです。
となると、北部戦区の分裂を契機に中国は5つの戦区に分裂する可能性もあります。また、内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区、チベット自治区が反旗を翻して、独立する可能性も否めませんので、正直どこまで分裂するのかは予測が難しいです。
中国は分裂し軍閥割拠時代に遡るのか、もしくは更に監視レベルを高めて、革命の芽を潰すことで更に強大な独裁国家を築いていくのか。それがどうなるのかは今の段階では予測がつきませんが、どうなるにせよ、日本に多大な影響があることには変わりません。
他人事ではないという感覚で、中国の動向を今後もチェックしていきましょう。
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