アメリカvsイラン戦争を促す「軍産複合体」の実態

2020年早々、アメリカとイランの戦争が始まってしまうのではないかと騒がれましたが、1月8日、トランプ大統領はホワイトハウスで「イランによるミサイル攻撃の死傷者はない」として、イランへの軍事攻撃を見送りました。ギリギリのところで寸止めされたようです。

 

しかし両者の緊張はまだ終わっていません。

 

表向きの発言からするとアメリカのトランプ大統領は、シリア、イラク、アフガニスタンなど危険で無用な地域からアメリカ軍を撤退させる方針でしたが、今回の騒動でイラク駐留が長引くことになりそうです。

 

今回の騒動のきっかけにもなったイラン軍の高官ソレイマニ氏の暗殺の動機はトランプ大統領の弾劾騒動から国民の目を逸らすためともいわれていますが、トランプ大統領としては米軍を撤退させたかった一方で、自らの地位を保ちたかったので目を逸らすための「ネタ」を探していたのだと思われます。そこで戦争、もしくは戦争になるかならないかのギリギリの状況を望む軍産複合体という勢力の意向とネタを探していたトランプ氏の利害が一致し、今回の暗殺事件に進展したのではないかと思われます。

 

トランプ政権も一枚岩ではなく、いろいろな勢力が入り混じっており、その中でも戦争ビジネスで潤う軍産複合体の勢力が最近存在感を強めています。結局イラクの駐留が長引くとそれは軍産複合体にとっては好都合です。

 

軍産複合体というのは、米国の軍需産業と国防総省(ペンタゴン)が維持する相互依存体制があり、その体制は第二次世界大戦以降、戦争のたびに潤ってきました。オバマ政権になってからは軍産複合体は存在感を弱めつつあったのですが、トランプ政権になってから息を吹き返し、影響力を急速に高めています。最近では「ディープステート」とも呼ばれますが、一般メディアではあまり取り上げられないために謎が多いままです。

 

これから記事を前後編で分けて、前編としてその軍産複合体の実態(歴史)に迫り、後編としてトランプ政権において軍産複合体がどのような影響力を持っているのかについて検証していきたいと思います。

 

 

軍産複合体の歴史

 

軍産複合体という言葉が広がったのは、ドワイト・アイゼンハワー大統領が1961年の退任演説で軍産複合体について述べたことがきっかけでした。

 

「軍産複合体により、市民の自由や民主的活動が危機にさらされてはいけない」

 

アイゼンハワー大統領は演説でそのように述べて、演説全体を通して、軍需産業とペンタゴンの結託は危険であると警鐘を鳴らしたのです。

 

第2次世界大戦後、米国が軍事力を強化し、世界各地に対して経済や軍事的影響力を高めていく中で、軍部、官僚、軍需産業、CIAからなる軍産複合体が形成され、次第にその存在感が大きくなっていきました。

 

軍産複合体の仕組み

 

軍産複合体の仕組みは少し複雑ですが、シンプルにいうと戦争を引き起こし、武器を売りさばいてお金を稼ぐ流れを常に作ろうとする体制をもっています。

 

まず重要な役割を果たすのが国防総省のペンタゴンで、ペンタゴンから発せられる莫大な軍需注文はペンタゴンと直接契約する会社 「プライム・コントラクター」 と呼ばれる航空機メーカーやエレクトロニクス企業に一括して流されます。その数はなんと22000社もあります。

 

代表的な例を挙げると、旅客機メーカーとしても有名なボーイング社、ロッキード事件でも有名なロッキード・マーチン社、電子レンジ開発の元となったマイクロ波レーダーを開発したレイセオン社があります。そういったペンタゴンと直接契約している企業は、兵器を開発している段階から、無利子の多額の推奨金を受け取ることができるようになっており、軍需産業は滞りなく兵器などを製造することができます。

 

更に、その周りに下請け・孫請け会社が約12000社あるといわれ、スタンフォード大学、ハーバード大学などの軍事に関する大学研究室が約70、ペンタゴンと契約しているシンク・タンクが十数、といったように、何千万人もの労働者・科学者・政治家・退役軍人・ロビイストが関わっています。軍産複合体はいわばアメリカを支える巨大産業でもあるのです。

 

軍需産業はそれらの兵器をアメリカ軍だけでなく、日本や韓国、サウジアラビア、イスラエルなどの「同盟国」にも売ってきました。

 

そしてそれら兵器たちを更に世界でばら撒くためにCIAが活躍します。CIAは諜報活動が主な仕事ですが、様々な工作活動によって世界各地で戦争の火種をつくることも仕事の一つです。反政府組織に資金提供して政権転覆を図ったり、対立させることで世界各地で戦争を引き起こし、ペンタゴン界隈の軍需産業の武器を売りさばいていくのです。そしてアメリカの軍需産業は潤います。

 

軍産複合体に仕掛けられたベトナム戦争とイラク戦争

 

アメリカ側の工作で始まった戦争はいくつかあり、例えば、ベトナム戦争は北ベトナム軍の哨戒艇がアメリカ軍駆逐艦に魚雷を発射したとされるトンキン湾事件がきっかけになってアメリカは本格的なベトナム戦争に突入しましたが、後にこれがアメリカによる自作自演だったことが判明しています。

 

他にも湾岸戦争はナイラという15歳のクウェート人少女の証言によって引き起こされた戦争でしたが、これもすべて嘘だと判明しました。ナイラはアメリカ議会にて「クウェートの病院にイラク兵が乗り込んできて、医療設備を持ち去ったんです」「小児病棟では保育器の中にいた赤ちゃんをイラク兵が引きずり出して、床に叩きつけたんです」と涙ながらに訴え、アメリカ議員の多くが涙を流し、イラクのフセイン政権を打倒すべきと米軍派兵が決まりました。しかしナイラはアメリカ駐在クウェート大使の娘で、その当時クウェートにいなかったのです。実はアメリカ広告代理店がナイラに証言の演技指導をし、泣くタイミングさえも指示していたのです。

 

そういったプロパガンダで始まった湾岸戦争のおかげで新たな兵器需要が生み出され、アメリカはサウジアラビアをはじめとする多国籍軍に大量に兵器を売りさばきました。

 

他にもボスニア・ヘルツェゴビナ内戦やコソボ紛争などバルカン半島における民族対立を煽ったのもアメリカの情報操作ともいわれており、結果的にNATOの介入を呼び、新しい武器市場になりました。また中国や北朝鮮の脅威を煽って、日本や韓国に武器を買わせているのも事実です。

 

アメリカの自作自演ともいわれる9.11の同時多発テロは、対テロ戦争のためという兵器製造に正当性を与える新たな口実を軍需産業にもたらし、その後、軍産複合体の中枢にいたブッシュ政権は、大量破壊兵器があるというニセ情報によってイラク戦争を引き起こしました。その結果、中東は荒れ果てた一方で、軍需産業は大儲けをしました。そもそもブッシュ家はパパブッシュの曽祖父、サミュエル・ブッシュの時代から軍産複合体を生業にしてきた一族で、ジョージ・ブッシュはいわば軍産複合体の申し子だったのです。

 

得をしたのは軍需産業だけではありません。アフガニスタン戦争の裏の目的は天然ガスのパイプラインを敷設するためでしたし、イラク戦争後も親米傀儡政権を樹立し、世界第2位の埋蔵量をもつ石油利権をはじめ、さまざまな権益を米国系企業に与えました。中東において戦争が多いのはこういったエネルギー利権が絡んでいるからです。このように軍産複合体もただ闇雲に戦争を起こすのではなく、石油のような二次的な旨味がある場所を狙って戦争を引き起こします。ウォルフォウィッツ国防副長官(ブッシュ政権時代)も「イラクの戦争目的は石油である」と明確にガーディアン記者に述べています。

 

さらに「戦後復興」という大義名分で、アメリカの大手ゼネコン「ベクテル社」がインフラ設備などの復興事業にあたっています。ベクテル社といえば世界各地で水道の民営化事業に関わり住民に大きな被害をもたらしていることで有名で、例えばボリビアでは、ベクテルはボリビア政府から水道の民営化事業を請け負いましたが、その時水道料金を三倍に値上げしました。このため、最貧困層が水道を利用できないという深刻な事態が生まれ、住民の抗議行動によって紛争が起こり、結局ボリビア政府は契約を解除した。その後ベクテルは契約解除による損害賠償を求めてボリビア政府と争っています。

 

軍産複合体はこういった「復興業者」を含められることもあります。

 

以上のように、戦争はアメリカにとって、巨大な公共事業として機能しています。「破壊」と「復興」がポイントです。国を破壊するときにはボーイング社などの軍需産業が儲かり、その後復興するときにはベクテル社などの建設業界が儲かります。その地が石油産出地域であれば石油利権もセットで手に入れます。このように戦争のたびに軍産複合体は肥えに肥えて、戦争中毒になっています。平和こそが敵で、戦争が命です。だから戦争がやめられない。無理にでも起こしたい。これが経済大国アメリカの闇の側面です。

 

といっても戦争を起こせば軍事費が上がるので、結局負担を強いられるのはアメリカ国民です。潤うのは軍産複合体で、アメリカ全体ではないのです。

 

オバマ政権時代はアフガンに増兵したり、シリア内戦に介入したりはしましたが、表立った大規模な戦争はしてこなかったために、ブッシュ政権時代と比べて軍産複合体の存在感も弱まりましたが、今再び軍産複合体という言葉が注目を集めています。ドナルド・トランプ大統領のもとで、軍産複合体が再び拡大しているのです。

 

次回はトランプ政権における軍産複合体の実態に迫ります。

 

IT化する「新・軍産複合体」とトランプ政権の関係

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