デジタル人民元vsドルの行方。お金の流れで見る世界情勢

新型コロナウイルスの蔓延で対応に追われている中国政府ですが、その裏側では「デジタル人民元」の発行準備を急ピッチで進めています。2020年以内に発行予定の「デジタル人民元」ですが、中国政府がそれを急ぐのにはあるワケがあります。ニュースではまだあまり取り上げられていませんが、デジタル人民元が発行されるとなると世界が大きく変わることが予想されます。

 

今回は今後世界を席巻するであろうデジタル人民元の実態に迫ります。

 

 

デジタル人民元とは

 

2019年10月、中国の政府系シンクタンクの幹部によるスピーチで「デジタル人民元」構想が発表されたことが大きく注目を集めました。

 

この幹部は「中国人民銀行(=中国の中央銀行)が世界で最初にデジタル通貨を発行する中央銀行になる」という見通しを公言しました。

 

2010年代に入ってからビットコインなどの仮想通貨が世界に定着し始めましたが、国の中央銀行が発行元となるデジタル通貨はまだ存在していませんでした。それが中国発でローンチされようとしているのです。

 

「デジタル人民元」という言葉はそれまでニュースでは取り上げられることもなかったですし、唐突のようにも思えますが、実は水面下で着々と準備がされていました。2014年に既に中国人民銀行はデジタル通貨の研究チームを結成し、2017年には「デジタル通貨研究所」を設立していたのです。

 

デジタル人民元はどのような場面で使えるのかというと、中央銀行が発行することから、銀行口座を介することなく、誰でも、どこでも使えるようになる見込みです。AlipayのようなQRアプリでお金が自由に送金できるというものです。

 

そして中国人民銀行「デジタル通貨研究所」の所長、ムー・チャンチュン氏が、「デジタル通貨は、既存の金融機関に支給されることになる」と述べていることから、デジタル人民元は中国人が一般の民間銀行の口座に預金している現行の人民元と交換できるものになると考えられます。

 

そうなると、中央人民銀行が、デジタル人民元の電子預金の口座開設を中国国民に提供する可能性が高く、国民が今まで使ってきた銀行の口座は不要になります。

 

ビットコインなどの仮想通貨との大きな違いは何なのかというと、サウスチャイナ・モーニング(2019年12月22日付)は、「デジタル人民元はビットコインのような投機性のある通貨ではない」と報じています。

ビットコインやリップルなどの暗号通貨は投機的な動きで価値が乱高下することがありました。仮想通貨元年といわれた2017年には、仮想通貨で巨万の富を築いた人たちが「億り人」と呼ばれていました。しかし2018年には仮想通貨の価格が暴落し、逆に破産する人も少なくなかったようです。

このように価値が乱高下するとなると投資家以外の一般人はなかなか手が出せませんし、一般社会に定着することはありません。その点を解決するためにも、例えばFacebookの仮想通貨リブラは発行にあたって、複数の国の通貨や国債を裏付けするとしています。

 

一方、デジタル人民元は、現在流通している人民元と同じ法定通貨といっていいものですから、政府への信用が裏付けとなり、価値も安定すると考えられます。

 

 

中国が世界初のデジタル通貨国に

 

シンガポールやカナダ、スイスでも、法定デジタル通貨の開発を目指していますが、どうやら中国が最初にローンチする可能性が高いです。

 

中国がデジタル通貨の発行で他の国をリードする理由は2つあります。

まず1つ目の理由が、キャッシュレス社会が既に浸透していることです。

 

中国の都市生活者は、ショッピングをするとき、AlipayやWeChatなどの銀行口座にリンクされたスマートフォンのアプリで支払いを済ませます。日本でもヤフーとソフトバンクの合弁会社が展開するサービス「ペイペイ」が2018年末にローンチされて以降、かなり普及してきましたが、中国ではAlipayが既に2011年にはローンチされており、瞬く間に爆発的に普及しました。2017年時点で利用者数は5億6200万人に達しており、今や屋台でも使えるほどの普及率です。

中国ではQRアプリで買い物をするだけでなく、QRコードを読むことでお互いにお金を送ったり受け取ったりすることも日常茶飯事であるので、中国人民銀行がローンチする新しいデジタル人民元についても、違和感を感じることなくすぐに慣れると思われます。

 

もう一つの理由は、デジタル人民元を支える技術、ブロックチェーンの開発で先行していることです。ブロックチェーンは、分散型台帳技術ともいわれ、暗号化された取引データが複数のネットワークに同時に記録され、共有されます。仮に一部のデータが悪意によって改ざんされても、分散したデータ(ブロック化されたデータ)との整合性が取れないため、すぐに不正が明らかになります。なのでデータの改竄が非常に難しいために安全性がかなり高く、低コストで管理できるとされ、ビットコインなどの仮想通貨にも使われています。

 

ブロックチェーン技術は先進国を中心に開発が進められていますが、中国ではブロックチェーン技術の関連企業が27000社以上もあり、特許の申請件数も2年連続で世界一です。2019年10月末には習近平国家主席がブロックチェーンが将来の金融を支える重要な技術だとして、開発を進めるよう指示したこともあり、関連会社の株価が一時的に上昇していたりします。

 

 

デジタル通貨導入する目的

 

中国政府がデジタル人民元を導入する目的はいくつか考えられます。中国の金融問題に詳しい中国人民大学の趙錫軍教授は、その主な理由に「犯罪対策」を挙げています。

 

デジタル通貨の導入で、すべてのお金のやり取りをデータとして残すことができるようになります。その取引データは本来のブロックチェーンであれば、暗号化されて誰も解明できないようになっているのですが、デジタル人民元の場合は「犯罪対策」のために使うのであれば、それが中国当局だけ暗号化された取引データを閲覧できるようになるということです。

 

中国当局は「匿名性を担保する」としていますが、お金のやり取りがすべて追跡することができるようになれば、「いつ、どこで、だれが、どのように」お金を動かしたのかが手に取るように分かるようになるので、脱税やマネーロンダリングといった犯罪抑止になります。また、取引データを閲覧できるということは書き換えることもできるということなので、例えば、犯罪集団などの取引をストップしたり、預金を0にして無力化することに応用することもできます。

 

中国では信用スコアが導入されていますが、信用スコアが低い人はデジタル人民元も使えないという措置をする可能性もあります。実際、信用スコアでブラックリスト入りされた人が航空券を購入することを拒否されたということが起きています。その人は公務員の腐敗を訴えるSNSに関する記事を発信することで当局に目を付けられていました。そういったことがデジタル人民元の場合でも起きることが考えられます。

 

ビットコインのような従来の仮想通貨は中国当局のような中央集権的な管理機関が存在しないもので一般的に「パブリック型」と呼ばれるブロックチェーンで運用されていて、暗号化されて秘匿性が高い故に裏金をマネーロンダリングすることにも応用されてきました。

 

一方、中国の中央銀行が発行するデジタル人民元は中国当局が中央集権的に管理することになりそうなので、それは一般に「プライベート型」と呼ばれるブロックチェーンで運用されることになります。中国当局が取引データ(トランザクション)を管理するので「暗号通貨」とは呼べません。

 

つまり、プライバシーがないので富裕層を中心にデジタル通貨の使用を避ける人も少なからず出てくることが考えられます。

 

中国当局がデジタル人民元のシステムを一元的に管理するとなれば、セキュリティー面が脆弱になるのではないかと考える人もいるでしょう。しかし、中国ではハッキングや盗聴を不可能にする「量子暗号通信」を飛躍的に向上させた衛星実験に成功していることから、デジタル人民元のシステムは量子コンピューターでもハッキングができないような「量子暗号」のセキュリティーシステムによって守られることになるでしょう。

 

もう一つの狙いが「人民元の国際化と脱ドル依存」です。

今やアメリカと世界1、2位を争う貿易大国となった中国ですが、世界における人民元の存在感は弱いままです。国際決済に使われる比率はアメリカのドルが40%なのに対して、人民元はたった2%程度しかありません。特に石油など主要な資源の取り引きは、ほとんどがドルで行われる仕組みになっています。「SWIFT」と呼ばれるその仕組みでは、ドルを使う場合、例えば、中国と日本との間での取り引きでもアメリカの銀行を経由して決済を行う必要があります。そうやってアメリカは世界中のお金のやり取りの間で中間手数料を取っているわけですが、おいしい思いをしているのはアメリカだけではなく、マイナー通貨同士の国のやり取りの場合は、現地通貨よりもドル決済の方が得する場合も多々あります。そういった事情もあって世界中の国々の準備通貨の6割がドルで保有されています。

 

その「ドルを介した国際決済」は米国内の決済システムを通じて米国政府やアメリカの中央銀行であるFRBが取引データをすべて閲覧できるようになっています。そして米国政府やFRBが望ましくないと判断した取引は、「ドル利用禁止」といった手段を使って経済制裁を下すことができます。例えば、イランに対する経済制裁に関しては、イランと石油の取引を行った企業にはドル決済を禁止することで、イランとの貿易を止めています。ムニューシン財務長官が「各国がドルを使いたければ、米国の制裁に従う義務がある」と強気に主張していることからもその影響力がどれほど強いのかが分かります。

 

アメリカのドルが強い理由はまさにここにあります。つまり、1971年にニクソン大統領がブレトンウッズ体制で定められた「金ドル本位制」を捨てた以降もドルが世界の基軸通貨としての地位を保っているのは「ドルを介した国際決済」システムがあるからだったのです。

 

ただ、このシステムに対して批判も出ています。時間がかかることや、国によってはコストが高いというデメリットがあるからです。これに対して、デジタル通貨であれば、短時間でなおかつ低コストで世界中に送金することができるようになります。

そこで中国はドルに代わる国際決済システムを作ろうとしているのだと考えられるのです。そもそも中国はアメリカとの貿易戦争の渦中にあり、食糧と石油を大きく輸入に依存しているために脱ドル依存を急ぐ必要があります。また、中国は一帯一路政策を通して中国経済圏をアジア、アフリカ、ヨーロッパを中心に世界各地に拡大しようとしているので、ドルに代わる自国の国際決済システムを作る必要性が、高まっています。つまりデジタル人民元は「国境を越えて取引ができる独自の決済メカニズムを構築し、米ドル決済システムへの依存から脱却すること」が主な目的なのです。

また、ロイターの記事が報じているように、中国は地方政府と家計部門のすべてを合わせると、GDPの300%の借金を抱え込んでおり、経済が事実上破綻状態です。不動産市場もバブル崩壊が近いといわれ、全体的にも経済が落ち目にある中で、香港デモや米中貿易戦争や新型コロナウイルスが重なって、中国は踏んだり蹴ったりの状態です。そんな中国にとっては、デジタル人民元を導入することでドル依存から脱却し、一帯一路政策で経済を盛り返さなければ、体制そのものが転覆しかねません。いわばデジタル人民元には中国の国運がかかっているのです。

しかし、それに対し、アメリカが黙っているはずがありません。

 

デジタル人民元に対するアメリカの反応

 

アメリカでは既にデジタル人民元に対する警戒感が高まっています。

 

例えば、カーター元国防長官は「デジタル人民元は中国の経済力を強め、アメリカを弱体化させる」と端的に指摘しています。

 

デジタル通貨を研究するマサチューセッツ工科大学のネハ・ナルラ氏は「ドルの競争力の維持が国の安全保障に直結することを真剣に受け止めて、革新を続けなければならない。国と民間企業が協力関係を探ることが必要だ」とデジタル通貨の開発の必要性を暗に示しました。

 

一方でムニューシン財務長官は「米国には非常に高度な(通貨)制度があり、基軸通貨ドルを扱う当局としては今後5年は(デジタル通貨は)不要との認識でパウエルFRB議長と一致している」と述べていることから、緊急性はないと捉えている模様です。

 

しかし逆をいえば、5年後以降はデジタル通貨の発行の必要性に迫られるという解釈もできます。中国のデジタル人民元に取って代わられる前にできるだけ迅速に対抗策を打つべきだと思いますが、アメリカの財務長官がどうしてこんなに悠長なのでしょうか。これには裏があると思われます。それに関しては次の記事で詳細を話します。

 

なんにせよ今現在はアメリカはどっちかというと、デジタル通貨に対してはあまり積極的ではありません。Facebookのリブラもアメリカ国内で批判されるだけでなく、G20で「深刻なリスクがある」として規制対象に入れられたので発行の目途が立っていません。

 

リブラの発行に注力するFacebookのCEOマーク・ザッカ-バーグは「北京政府の通貨のデジタル化の努力は、米国の金融を塵にしてしまうかもしれない」と警戒しています。

 

デジタル人民元の導入が間近に迫るとみられる中、アメリカが今後どのように動くのかは世界の注目が集まるところです。

 

貿易戦争の背景にはこうしたブロックチェーンや5Gなどの先端技術争いもあるわけですが、技術面やスピードを見れば中国に軍配が上がっているように見えます。

 

ドルvsデジタル人民元が今後繰り広げられていくわけですが、私の予想ですとデジタル人民元が勝ちます。そもそもドルは勝とうとしていない節すらあります。なぜドルは最初から棄権しているのか。次回の記事ではその理由に迫ります。

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